常夜燈索引

                    

   小泉純一郎とヒトラー 
   (世界戦略情報「みち」平成21年(2669)2月15日第288号) 

▼郵政民営化をめぐって麻生太郎首相がその見直しを示唆すると、政界引退を表明していた小泉元首相が突然麻生首相を批判して、郵政民営化の正当性を主張し始めた。
 平成一七年の総選挙で、郵政民営化の実現を訴えた小泉自民党は三百議席を獲得する勝利で小泉構造改革路線は大多数の国民の支持を得た。その後、一昨年来のサブプライム問題発生以降、噴出したわが国の格差社会化の原因は小泉構造改革にあったとする論が急速に広まり、大都市圏を除く地方では小泉・竹中に対する怨嗟の声が渦巻いている。
 地方交付税の縮減、後期高齢者医療制度の創設、赤字郵便局の閉鎖、派遣労働者等の失業など、小泉時代にもて囃された「官から民へ」を旗印にした新自由主義経済が逆流して、その負の部分が露呈したことが小泉改革への批判として噴出しているといえよう。
 昨日まで全国民的に声援を得ていた小泉路線が喉元を過ぎる間もなく弊履(へいり)の如く捨て去られた現状を、小泉氏はさぞ苦々しく思っていることだろう。
▼郵政民営化に象徴される米国型新自由主義経済モデルを使った小泉改革は、日本的変革理念を持たない戦後政治の悲劇的象徴だったとも言える。
 小泉氏は郵政事業に代表される官営諸制度、大きく言えば日本の官僚制度自体の変革を目指していたものと思われる。それは田中角栄元総理が集大成した日本型社会主義・国家資本主義体制の打破を意味するものだった。
 小泉氏の心中を忖度するとすれば、グローバリズムが席巻する世界の中で、日本的ぬるま湯社会は自家中毒を起こしており、たとえ犠牲者は出ようとも世界へと打って出て荒波に揉まれ、日本人や企業がグローバリズムに負けない強さ、逞しさを取り戻すべきだ、という危機感と展望があったのかも知れない。
 しかし、小泉改革の敵は明治以来の太政官体制であり、そこには中央・地方の官僚公務員、官公労組合、無数の特殊法人、国内型大手企業、地場産業などの諸勢力が結集している。これを崩すことは容易ではない。
 小泉氏は改革を成し遂げるには国内勢力の支援を受けることは不可能と考え、ウォール街の投資銀行、保険会社に最終的なケツ持ちを依頼した。そのネットワークに乗って国際金融官庁・財務省や海外で利益の過半を稼ぎ出す自動車、精密機械、金融などグローバル企業が小泉周辺に蝟集して、日本型社会主義体制を打倒する陣営を形成したのである。
 その指南役が竹中平蔵氏で、小泉氏はその打倒戦略の策定から実行までを丸投げした。
▼小泉総理は在任中にドイツを訪問したとき、シュレーダー独首相とともにバイロイト音楽祭を訪れ、ワーグナーの『タンホイザー』を鑑賞している。
 小泉内閣メールマガジンに「ドイツではシュレーダー首相の招待で、歴史あるバイロイト音楽祭で、ワーグナーの『タンホイザー』を堪能することができました。バイロイトでワーグナーを聞くのが夢だった私にとって、オペラの楽しさを味わえた、忘れられない素晴らしい音楽に酔った一晩でした」と記している。シュレーダー独首相は「現職のドイツ首相もめったにバイロイト音楽祭を鑑賞することはない」と異例な出来事だったと述べている。
 バイロイト音楽祭は熱狂的なワーグナー・ファンだったヒトラー独総統が、第一次大戦後困窮していた同音楽祭を後援し、国家的行事に持ち上げた故事が災いし、一種のタブーとして政治が近づくことはなかった。
 小泉氏がわざわざバイロイト音楽祭を訪問した心奥は明らかだろう。自らをヒトラーに擬しているのだ。
 ヒトラーは第一次大戦とその結果であるベルサイユ条約で疲弊したドイツを建て直すため、英米金融資本家からの資金提供を元に国民社会主義ドイツ労働者党(ナチス)を拡大させ、政権を獲得、ドイツを再興した。小泉氏も悪魔に魂を売ってでも権力を掌握し、ドイツを復興させたヒトラーに自らを擬し、米国金融資本家に魂を売ってでも日本型社会主義体制を打ち壊そうと考えたのだ。そして五年半という長期政権を維持して半ば成功した。
 後年ヒトラーはミュンヘン一揆に敗れ獄中に繋がれていた頃を「あの頃の自分は哀れな悪魔だった」と回顧している。英米資本家の望むように、彼らがやりたくとも手を着けたがらなかったユダヤ人問題や少数民族問題を荒療治で解決し、ドイツ資本主義を復権させた。その後は羊の仮面を脱ぎ捨てて狼(ヴォルフ)と化したヒトラーは、スポンサーだった英米の資本家たちに襲いかかりドイツはヨーロッパを席巻した。
▼日本型官僚社会を変革しようとしたその志を意気に感じ国民は応援した。ただその理念は英米型新自由主義経済モデルでありグローバリズムだった。「日本」という理想を喪失した戦後日本人の悲劇である。「資本制の太鼓叩き」(ヒトラーの言葉)から、ドイツの救世主となったヒトラーはベルリンの地下壕で自殺し落とし前をつけた。政界を引退し逃げ切ろうとした小泉氏はいま悪魔の落とし前をつけることを迫られているのだろう。(青不動)