常夜燈索引

                    

  食料は神はからいの賜 
   (世界戦略情報「みち」平成21年(2669)3月1日第289号) 

▼昨年、毒性の強い発癌性のカビや農薬に汚染された外国産米が食用として転用された問題が起こった。現在も七七万トンもの「ミニマムアクセス米」なる名称の外国産米が日本政府の手によって輸入されている。
 七七万トンという数量は、わが国の年間消費量の八・四%に相当する。つまり約一千万人の日本人が年間食べる米が毎年輸入されているのだ。
 平成七年、日本政府はWTO(世界貿易機関)農業協定交渉で、国産米を保護するため外国産米の輸入関税を七七八%の高率に設定する代わりに最低輸入「義務」=ミニマムアクセスとして外国産米の輸入を約束した。しかし、外国産米に需要は少なく、多くが食糧倉庫に積み上がり、多額の保管料がかかっている。
 平成一八年度で購入費に四九三億円、保管料が一八四億円もかかっている。米国産、タイ産が多く、豪州産、ベトナム産がそれに次ぐ。一トン五万~七万円程度で、国産米の二~四割の価格だ。在庫は一時二〇三万トンにまで積み上がったが、現在は一二〇万トン強といわれている。
 みそ、菓子メーカーに販売したり、過去には北朝鮮への援助用にも回した。いずれにせよ全量を売り捌くことは不可能で、特に汚染米も含まれており、農水省は不正を承知でなりふりかまわず在庫削減に動いていることが事件につながっている。
▼元来外国産米の輸入「義務」はわが国政府が自動車産業や電機産業などの輸出型企業の国際市場確保のため農業を犠牲にした結果生まれたものである。米国、豪州、タイ、ベトナムなど食料輸出国にわが国の工業製品を売り込むため、彼らに米を例外として日本の農産物市場を開放しなくてはならなかったのである。安い外国食料品が輸入され食料自給率は低下した。さらに米の減反政策を行なっているにも拘らず、これらの国から「義務」として需要の少ない米を輸入しているという矛盾だらけの農業政策が採られているのである。
 政府はミニマムアクセスを「輸入義務」と解釈し、事実上不要な外国産米を買い続けているが、実際はミニマムアクセスとは、「輸入機会を提供する約束」と国際的には解されており、約束数量を全量輸入する「義務」は無いことを最近農水省も認めている。
 平成一九年、米の国際価格が急騰した際、業者が希望する買取価格で入札が成立せず、農水省は七〇万トンを輸入し、七万トンの輸入「義務」を果たさなかった事実がある。つまり政府の判断で輸入量を変えられることを政府自身が明らかにしたのだ。
 ミニマムアクセス米の膨大な在庫は国内産米を圧迫し、米価下落の大きな要因となっている。これを食料不足で飢餓に陥っているアフリカ諸国などに援助に回すことができればよいのだが、それはWTO協定で禁じられている。米国をはじめとする食料輸出国が自らの市場を日本の無償食糧援助で荒らされることを警戒し禁じているからである。
▼そもそも、食料や農産物を工業製品と同列に扱い、市場原理に委ねて取引しようとするWTOの原則そのものに根本的な誤りがある。
 工業製品は農産物より一般に利益率が高く、企業も政府も貨幣現象=数字現象に囚われているため低収益の農業を切り捨てても構わない、という認識で今日まで来ている。
 しかし、工業などの第二次産業や、サービス産業など三次産業も含めて、すべての産業の基礎は農業によって支えられていることが忘却されている。農業なしに人は生きることができず、植物なしに動物は生存できない。太陽エネルギーを変換する光合成こそは、地球上で最大無二の「生産活動」であり、これを無償で行なう植物の働きこそは神はからいとしか言いようがない。光合成とは、緑色植物や光合成細菌が太陽光エネルギーを用いて二酸化炭素から糖類などの有機物を合成することで、炭酸同化(炭酸固定)作用の一種といわれている。
 地球上のすべての生物は、直接あるいは間接に太陽光エネルギーに依存している。緑色植物や光合成細菌は直接太陽光のエネルギーを利用できるが、動物などの従属栄養生物は植物を自分で食べるか、または草食動物を食べてエネルギーを得ている。石油や石炭、天然ガスも何百万年も前の動植物の分解物であるから、これらの燃料に蓄えられたエネルギーも太陽光エネルギーの変形したものである。
 このように、地球上の生命にとって光合成による太陽光エネルギーの変換は生存に不可欠であり、もしも植物がこのような働きをしなかったならば、地球上の生命は存続し得ない。
▼わが国の古道にある新嘗祭や大嘗祭には、この地球の生きとし生けるものの根本エネルギーである太陽エネルギーを唯一食料に変換してくれる、コメに代表される植物、穀物に対する感謝と畏敬が込められている。
 工業製品がなくなっても不便になるだけだが、五穀がなくなれば、人間は消滅するほかない。わが先人のおコメに対する信仰の深さをゆめ忘れてはならない。(青不動)