常夜燈索引

                    

  日米開戦と奇妙な民間交渉の黒幕 
          (世界戦略情報「みち」平成21年(2669)3月15日第290号) 

▼一九四五年四月一二日、対日戦争および対独戦争における米国の勝利を目前にして、ルーズベルト米大統領は急死した。
 ルーズベルトは、一九三九年九月のドイツ軍のポーランド進撃により英仏などが対独宣戦を行なったのを尻目に局外宣言を行ない、真珠湾攻撃まで米国は中立を維持した。
 ドイツ軍による英本土への猛攻撃を受け風前の灯となった大英帝国の宰相チャーチルは、米国の参戦をたびたび懇願したが、世論の反対を理由に派兵要請をルーズベルトは拒否した。
 ルーズベルトは一九四〇年に英国と駆逐艦・基地協定 (Destroyers for Bases Agreement) を結んだ。これは、カリブ海に点在する英領諸島とカナダ・ニューファンドランドとにある英海軍基地の使用権を米国が獲得する見返りに、米海軍駆逐艦五〇隻を英海軍とカナダ海軍に提供する協定である。さらに一九四一年には、レンドリース法(Lend-Lease Acts)=武器貸与法を制定し、米国は英国、ソ連、支那国民政府などに莫大な軍需物資を供給することになった。米国は駆逐艦・基地協定と同様に、軍需物資と交換に英国からさらに大西洋沿岸の英領基地資産を譲り受けている。
 レンドリース法によって総額五〇一億ドル(現在の価値で約七千億ドル)の物資が供給され、そのうち三一四億ドルが英国へ、一一三億ドルがソ連へ、三二億ドルがフランスへ、一六億ドルが支那国民政府へ提供された。また逆レンドリース法(Reverse Lend Lease)もあり、米国に航空基地などを提供する見返りに米国が対価を払うもので、英本国と英連邦諸国は六八億ドルを受け取っている。
 ルーズベルトは第二次大戦の傍観者を演ずることで、大英帝国の虎の子の大西洋沿岸の植民地利権をもぎ取り、事実上大英帝国の勢力を削った。英国はレンドリース法で供給された物資の代金を値引きさせたものの、完済するのには二〇〇六年までかかった。ソ連は代金のほとんどを支払わず一方的に物資を貰っただけだった。
 ルーズベルトとチャーチルの関係は友好的ではなく、牽制と協調と対立を繰り返していた。反対にスターリンとは極めて親密だったことは近年公刊の『ルーズベルト・スターリン往復書簡集』などで明らかとなっている。
 ルーズベルトは第二次大戦後の戦後構想として米ソ協調による共同統治を考えていたといわれている。この構想に七つの海を支配した大英帝国の存在はなかった。
 チャーチルの「鉄のカーテン」発言に代表されるように、実際には歴史は米ソ協調ではなく冷戦に突入し、大英帝国は対ソ戦における西側の司令塔として情報・戦略面で米国をリードした。
 かかる歴史に鑑みれば、ルーズベルト急死の真因が戦後構想をめぐる英米の対立にあったことは間違いない。
▼日本軍のハワイ真珠湾攻撃により、米国は英国が熱望していた対独戦に参戦することとなった。その前一年ほど、日米両政府は交渉を行なっていた。この交渉は昭和一五年一一月二五日に来日した、アメリカ・メリノール教会の神父二人と井川忠雄産業中央金庫理事との異例の「民間交渉」から始まった。
 二人の米国人神父は滞日中、松岡洋右外務大臣をはじめ武藤章陸軍軍務局長など政府要人と会談し、日米関係調停への民間外交に公的なお墨付きを得た。これを受けて渡米した井川は二神父からルーズベルトの側近、ウォーカー郵政長官を紹介され、この民間外交が米国政府も承認していることを確信する。ハル国務長官は井川のルートを通じて野村吉三郎駐米大使と非公式に会談するなど、「民間外交」は重い存在となっていった。交渉を促進するため岩畔豪雄陸軍軍事課長が野村大使の特別顧問として訪米した。井川、岩畔、二神父、ウォーカーは日本に宥和的な「日米諒解案」を作成し、これが野村大使からハル国務長官に交付され、さらに近衛文麿総理に伝達された。近衛は「諒解案」を基礎に日米交渉開始を指示したが、当時日ソ中立条約交渉のため訪欧中で日米交渉の経緯を把握していなかった松岡外相は帰国後に「諒解案」に疑義を主張、交渉は松岡解任まで頓挫した。その後は日本軍の南部仏印進駐などがあり、結局一一月二六日のハルノートに至って日米交渉は決裂した。
▼民間レベルの話し合いからはじめ、希望に満ちた条件を提示する。対話が軌道に乗ったところで政府間の交渉に切替え、徐々にハードルを上げ、日本側が受け入れ不可能な項目を追加して交渉する。交渉は決裂し、日本は武力行使に踏み切ることになる。
 米国を参戦させるためこうした日本暴発シナリオが英国情報機関MI6のニューヨーク支部で練られ実行されたのだった。クーン・ローブ商会にいた米海軍情報部のストロースやMI6のワイズマン男爵こそ、奇妙な日米民間交渉の黒幕だったことが最近の資料で裏付けられるようになった。
▼世界的金融ハルマゲドンを奇貨としてプーチンとオバマはルーズベルト・スターリン以来の米露協調体制の再構築に向かっている。これを阻止するため狡智な老英帝国が仕掛けてくる策謀を見抜くことが肝要だ。(青不動)