常夜燈索引

                    

   自らの名誉は自ら守る 
    (世界戦略情報「みち」平成21年(2669)5月1日第293号) 

▼わが国には同じ職種、同じ環境の人々が相互扶助のために掛金を出し合い、会員が困ったときに拠出するという「共済」の習慣がある。
 根拠法のある共済には農業協同組合法による全国共済農業協同組合JAや漁業災害補償法による漁業共済、中小企業等協同組合法による火災共済組合などがある。根拠法のない、いわゆる「無認可共済」にはPTAの「安全互助会」、知的障害者の「互助会」、日本勤労者山岳連盟の「遭難対策基金」など多数存在する。
 平成一八年四月に改正保険業法が施行された。これは十数年前に起きたオレンジ共済組合事件など、財務内容の不透明な自主共済が破綻、加入者に大きな被害が出るケースが続発したため、契約者の保護を目的に共済の無認可運営を禁じる内容を新たに盛り込んだ法律で、根拠法のない共済を規制するものである。
 共済の対象者が一千人以下か、一つの会社や学校内だけの自主共済は存続できることとなった。規制対象となった共済は昨年四月までに保険会社になるか、一年ごとの掛け捨てとなる少額短期保険業者になるかの選択を迫られ、廃業した自主共済も多い。
 たとえば東海地方の知的障害者の親と知的障害者福祉協会で設立された「知的障害者ふれあい共済」は一ヶ月八百円の会費で、障害者の入院時に一時金五千円、入院給付金一日一千円、付添給付金同八千円が支払われる。入院時、二四時間の介助者が必要で、付き添いをしてくれた施設職員には共済の給付金から支払われる。重度の障害があると、既存の保険には入れないことが多く、自主共済は貴重な相互扶助の手段だった。
 この「ふれあい共済」は、助け合いを目的に保護者らのボランティアで運営され、会員数は八五〇人である。改正保険業法が施行され、自主共済のうち会員が一千人以上いるなどの団体は、「保険会社」か「少額短期保険会社」に移行することが求められたが、会員八五〇人のふれあい共済は規制の対象外となるはずだった。しかし、東海財務局から「知的障害者は契約能力がない。障害者の親を契約者として、被保険者が障害者本人と考えるため、会員数は倍の一七〇〇人だ」と指摘を受けたため、組織を二つに分け、一千人以下にして存続させたが、それぞれに事務所や事務員の設置を求められ、年間支出額が増大し、会費値上げを余儀なくされそうだという。自立、自助の精神でやってきたこうした共済が、営利を目的とした保険業に移行することは不可能といえよう。
▼近年有名になったいわゆる「対日要望書二〇〇八年版」に、はっきりと「共済」を営利目的の保険業と同列に扱い、金融庁の監督下に置くべきとの要望が記されている。庶民や弱者の助け合いが金融グローバリズムの荒波によって崩壊しつつあるのだ。

「米国は日本に対して、共済制度による保険提供の仕組みを改善する手段を講じるよう提言する。共済は日本の保険市場において相当な市場シェアを有しており、金融庁によって規制を受ける民間保険提供者と直接競合しているにもかかわらず、金融庁所管の保険提供者に義務付けられている規制措置の多くを回避している。共済の規制環境を改善することは、健全で透明性のある規制環境の確保につながり、消費者および日本の保険市場にとってメリットとなる」
(日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書、二〇〇八年一〇月一五日、在日米国大使館ホームページより)

▼「対日要望書」にはわが国の経済社会の慣行や自主ルールを参入障壁と捉え、これを突き崩そうとする要望が満載されている。対日要望書の要望項目のほぼ一〇〇%を日本人が作成、米国政府に提供しているといわれている。そこには日本人、それも行政や特定業界の隅々まで熟知した者でなければ書けないような情報が詰め込まれているからである。
 米国政府の虎の威を借りて、自らの利益を実現しようとする集団がわが国に存在し、それが米国の利益に合致しているというのが「対日要望」の実態である。
▼マックス・ウェーバーはベルサイユ講和会議で敗戦国民として、戦勝国にこう主張した。「我々は戦いに敗れ、君たちは勝った。さあ決着はついた。一方では戦争の原因ともなる実質的な利害のことを考え、他方ではとりわけ戦勝者に負わされた将来に対する責任──これが肝心な点──にも鑑みて、ここでどういう結論を引き出すべきか、いっしょに話し合おうではないか」。
 これ以外の言い方は、すべて品位を欠き、禍根を残す。国民は利益の侵害は許しても、名誉の侵害、中でも説教じみた独善による名誉の侵害だけは断じて許さない。戦争の終結によって少なくとも戦争の道義的な埋葬は済んだはずなのだ。
「こんな女に誰がした」といつまでも女々しく米国批判をしても始まらない。自らの名誉は自ら守る、まずその腹を固めたいものである。 (青不動)