常夜燈索引

                    

  日本共同体再生への道 
   (世界戦略情報「みち」平成21年(2669)6月1日第299号) 

▼冷戦時代、わが国の政府・自民党は田中角栄らが中心となって「国土の均衡ある発展」を目指し、都市部や工業地帯から上がった税収を地方、過疎地、離島へ重点配分し、田舎と都会の格差解消に努めてきた。
 田中角栄は自らの著作『日本列島改造論』の中で「これまでの生産第一主義、輸出至上主義の経済政策を改め、社会資本ストックの充実と先進国並みの社会保障水準への向上を目的とした内需拡大策を打ち出す必要性がある」と述べ、今日も世界経済危機で露呈した日本の過度外需依存経済に警鐘を鳴らした。当時から経済面での静かな対米自立を主張していたのだ。

「昔はね、田んぼは一反(三百坪)百五十円だった。小学校を出て、炭鉱や工場で三十年も働けば、三千円の退職金が貰えた。千五百円で、田んぼが一町歩は買える。家を改築して、墓と仏壇を買って七百五十円。まだ、七百五十円は残る。これが昔の農村の、まァ、中級の生活だった。じゃぁ今はどうか? 大学を出て、三十年働いて、退職金は三千万円くらい。それでせめて、百坪の宅地が買えて、持ち家が建つとなれば、団地に住んで、イライラしているみんなの気持ちも、ガラリと変わるよ。それは夢でも何でもない。実現できることなんだ。どうするか?全国に十の基幹都市をつくる。それを要にして、百の人口二十五万都市を造れば良い。二十五万都市には、大学をおき、基幹産業を一つ立地すればいい。付加価値の高い知識集約産業をね。全国に衆議院の選挙区が百三十ある。この選挙区ごとに、二十五万都市を一つずつ作れば、全て車で三十分以内に通える。仕事が終わったら豊かな水と緑のある家にさっさと帰って、浴衣に着替えて、冷や奴で一杯やり、女房や子供を連れて、盆踊りに出かける。私の都市政策の目標は、年よりも孫も一緒に、楽しく暮らせる快適な環境をつくることなんだ」

 田中角栄はわが国地域共同体のよき側面を残しつつ工業化を推進するという、一種の国家社会主義的国土・産業政策を行なおうとしていた。皮肉にも、当時の世界の盟主米国は日本が共産圏に走らなければ大抵の事はお目こぼししたので、角栄的日本型社会主義政策は許容され、その系譜は竹下登、小沢一郎に引き継がれている。
▼冷戦終結後、米国は冷戦時代に溜め込んだ日本の富を吐き出させるべく、日米構造協議、対日要望書などを通じて角栄的社会主義システムそのものを破壊することに精力を傾注した。ソ連崩壊後の最大の敵は日本であると当時のベーカー米国務長官は明言した。
 これに意識的か無意識的か、内応したのが小泉総理であった。竹中平蔵や外資系官僚を参謀として「官から民へ」、「小さな政府」というレーガン・サッチャー路線の二〇年前の絵空事を信奉し、忠実になぞって見せた。小泉が衆議院選挙に初出馬して落選、福田赳夫元総理の自宅で書生として修行したことは知られている。福田総理退陣後、田中・竹下支配が長年続いたが、自民党内の数に劣る森派・小泉が国民的人気で自民党総裁選に勝って以来、田中・竹下グループは凋落、「福田的なるもの」がその後の日本政治を主導した。
 舞台はめまぐるしく変わったかに見えるが、八月三〇日に行なわれる衆議院議員選挙は、再び「田中的なるもの=小沢」と「福田的なるもの=小泉」の戦いに他ならない。動物的勘に優れる小泉は負けを見越してさっと政界を引退したが、対立軸は依然変わっていない。
▼『日本列島改造論』はこうも言う。

「単位会計で見て国鉄が赤字であったとしても、国鉄は採算とは別に大きな使命を持っている。明治四年に僅か九万人に過ぎなかった北海道の人口が現在、五百二十万人と六十倍近くに増えたのは、鉄道のお陰である。全ての鉄道が完全に儲かるのならば、民間企業に任せればよい。私企業と同じ物差しで国鉄の赤字を論じ、再建を語るべきではない。都市集中を認めてきた時代においては、赤字の地方線を撤去せよという議論は、一応説得力があった。しかし工業再配置を通じて全国総合開発を行う時代の地方鉄道については、新しい角度から改めて評価し直すべきである。北海道開拓の歴史が示したように鉄道が地域開発に果たす先導的な役割はきわめて大きい。赤字線の撤去によって地域の産業が衰え、人口が都市に流失すれば過密、過疎は一段と激しくなり、その鉄道の赤字額をはるかに越える国家的な損失を招く恐れがある。国民経済学的にどちらの負担が大きいか、私たちはよく考えなくてはならない」

 中曽根内閣の国鉄民営化は郵政民営化の走りのようなものだったが、その結果赤字路線が次々に廃止され、地方や過疎地の車のない高齢者や弱者は移動手段を失い、今日の限界集落問題の原因を作った。角栄は道路網の整備に力を注ぐ一方で、新幹線や鉄道の充実にも目を配り「総合交通ネットワーク」という概念を提起した。米国経済が転び、日本経済も突風に晒されているが、均衡の取れた国土開発、過密と過疎の同時解消、新産業基盤の整備という、田中角栄の宿願を実行することこそ、日本共同体再生への道ではないか。(青不動)