常夜燈索引

                    

  利権亡者に絡め取られた日本農業 
          (世界戦略情報「みち」平成21年(2669)10月1日第302号) 

▼昨年五月、当時の町村官房長官は「世界で食糧不足の国があるのに、私の地元北海道ではコメができる場所(水田)の半分は使っていない。日本で減反しているのはもったいない。減反を含めて農業政策を根本から見直すことが必要だ。少ない食糧をお金持ちの日本が発展途上国と取り合うのはよくない。政府は約四十%の食糧自給率を四十五%にしようとしているが十分なのか。五割、六割にしなければいけない」と講演で述べた。
 自民党農林族や農林省はこの「減反見直し」発言にすぐ反発した。自民党食料戦略本部長を務める加藤紘一氏は「コメ価格が下がっては大変なことになる、正直言ってコメは余っている」と反論、白須敏朗農林事務次官も「(食糧問題に対応した)農政全般の見直しは必要だが、主食用のコメの増産は考えていない」と否定した。
 その後町村長官も「今すぐ見直すとは言っていない」と事実上発言を修正し、見直しはうやむやとなった。
 昨年に発覚した米粉加工会社「三笠フーズ」による汚染米不正転売事件は、わが国の歪な農業・農政の実態を白日の下に晒し、これを正す気運を高めたが、町村発言が修正を余儀なくされたように、農業に関係する利権グループは現在の構造を死守する構えである。
▼一九六〇年代、米の大豊作が続いたことを契機に米の生産調整、いわゆる減反政策が始まった。政府は農家が米以外の作物を作った場合に補助金を出したり、市場から米を買い上げるなどして米価格を維持するため過去四〇年間に七兆円もの支出を行なっている。
 米価格がかかる施策で高止まりする一方、海外から小麦、大豆などの安い穀物が輸入されて高い米の消費が減少、減反面積は年々拡大し、いまや全体の四〇%と限界に近づいている。また、減反に参加しない農家が増えているため、減反に参加する農家は参加しない農家相当分の減反も行ない、価格維持の利益は不参加農家にも及ぶため、参加農家がバカを見る、という事態も起こり不満が高まっている。
 矛盾を抱えた減反政策の見直し論議は、たびたび湧き起こっているが、米価格の下落を恐れる農家、農業団体、農林族議員が反対し、見送られている。実際は、七兆円を投じても価格下落と消費減退を止めることはできていない。
▼一九九三年のGATT(関税貿易一般協定)ウルグアイ・ラウンド合意で、日本は約七八〇%の高関税で外国産米の輸入を制限する代わりに一定量の輸入(ミニマムアクセス米)を「義務」づけられ、現在は国家管理貿易として年間七七万トンを購入し、二〇〇六年実績で四九三億円、保管料が一八四億円かかっている。
 政府は年間約一〇回の入札を実施、落札商社がその価格で米を調達する。米国、タイ、オーストラリア、ベトナム産という購入順位で、一トン五~七万円程度で、国産米価格の二割~四割だ。在庫は一時二〇三万トンまで膨れたが、現在は一二〇万トン強という。毎年みそ、菓子メーカーに販売したり、援助用に回したりしている。
 一言に七七万トンというが、一年間の東京都民米消費量にほぼ匹敵する莫大な数量であり、これが毎年「義務」として輸入され倉庫に山積みとなる。国産米を保護するための米なので一般食用市場には出せず、結局、農林省は積み上がる一方のミニマムアクセス米を闇市場に流れることを知りながら、売捌くことを優先させたのだ。これが汚染米問題で明らかになった。
▼農林省や族議員はミニマムアクセス米の購入は「義務」であり、工業製品の輸出を国家存立の要件とする日本の犠牲に農業がなっている旨訴えていた。ところが、最近農林省は「米の輸入は国家貿易であり約束した全量を買入れる義務がある」いう主張を、「ミニマムアクセスとは輸入機会を提供するとの約束である」と修正し始めている。
 日本と同じく米のミニマムアクセスを国家貿易として「義務」づけられている韓国は一九九五年から九八年まで九六年を除き毎年実輸入量がミニマムアクセス量を下回っているが、たった一度として約束違反を追及されたり、提訴されたことはない。
 日本政府も二〇〇七年は七万トンの輸入義務量を履行せずに打ち切った。つまり政府の自主的な判断で輸入量を変えることができることを示している。
 膨大な減反を行なって水田を四〇%も失いながら、東京都民一年間の消費量の米を輸入しこれを粗末に処理する。どう考えても異常なわが日本の農業は高度成長以降、及び腰の農政に群がる利権の亡者どもに絡め取られ、瀕死の状態にあるのではないか。
▼日本の国の成り立ちは、神勅「吾が高天原にきこしめす齋庭(ゆには)の穂(いなほ)をもて、また吾が御子によさせまつるべし」に示されているとおり、米作りを中心にした祭政一致の生活に基礎をおく。
 天皇が果たされている農耕祭祀を司るお役目も米作りあってのことである。畏れ多いことだが、わが国の米作りの衰微はすなわち皇室の衰微に直結することをわれわれ国民は肝に銘じるべきであろう。 (青不動)