常夜燈索引

                    

  財政当局の本末転倒的愚策 
     (世界戦略情報「みち」平成22年(2670)3月15日第312号) 

▼財務省はこの二月、「日本の財政関係資料」という国民向けパンフレットを発行した。わが国の財政状況の悪化を綴った内容のあまりの赤裸々ぶりに、多くのエコノミストから、海外マーケットでの悪影響を危惧する声さえ上がっているという。
「我が国財政を家計にたとえたら」として、一世帯月収四〇万円に対し必要経費総額が七〇万円(家計費=一般歳出四五万円、ローン元利払い=国債費一四万円、田舎への仕送り=地方交付税一一万円)、不足分の三〇万円を毎月借金し、ローン残高が四八六八万円としている。

「我が国の公債残高は、年々増加の一途をたどっています。平成二一年度末の公債残高は五九二兆円に上ると見込まれていますが、これは税収約一三年分に相当し、将来世代に大きな負担を残すことになります」

「債務残高の対GDP比を見ると、九〇年代後半に財政の健全化を着実に進めた主要先進国と比較して、日本は急速に悪化しており、最悪の水準となっています」

「特別会計の歳出総額は三五五兆円、会計間のやりとり等を除いた歳出純計額は一六九兆円。その大半は国債償還費等、社会保障給付費、地方交付税交付金等、財政融資資金への繰入れ(財投債による資金調達)であり、これらを除くと、約一〇・〇兆円となります」

「特別会計の剰余金は二八・五兆円〔国債整理基金特別会計を除いて一二・一兆円〕。これらは、①積立金等への積み立て、②翌年度特別会計歳入への繰入れ、として処理されています。一般会計へ繰入可能なものはこれまでも活用してきています」

などとわが国財政の危機的状況が縷々説明されて、話題となった「埋蔵金」は一〇兆円程度しかない、とはっきり示している。もはや鼻血も出ない状態だということである。
 結局、消費税の大幅アップとさらなる歳出削減、緊縮財政を行なって負担を「子や孫にこれ以上先送りしない」財政に転換すべきだと示唆しているのだ。
▼財務官僚からこうした強い警告を受けた菅財務相は「消費税論議をはじめる」と発言、従来の態度を一変させた。歳出の見直しで無駄遣いを徹底的に削減する、埋蔵金で子ども手当を実現する、といった民主党の公約は事実上不可能であると告白し、今後は増税と縮小均衡で財政規律を回復する道に転進する、と宣言したも同然である。
 ところが海外の財政当局や経済学者たちは、日本は世界一の金持ち国家で、三〇〇兆円のおカネを海外に貸しており、財政危機とはいえないとたびたび指摘している。
 東南アジアのある首脳も「日本は多額の金融資産を持ち、それを自分の国のために使わないから、長期間、景気が低迷し、財政赤字が増えているのであって、財政赤字は偽装ではないか」と日本の財政当局の姿勢に疑念を呈しているという。
 コロンビア大学教授のデービッド・ワインシュタインは二〇〇五年に日本経済新聞で、次のように述べている。

 二〇〇二年末の日本政府の粗債務(中央・地方政府)は国内総生産(GDP)の一六一%にのぼる。しかし政府の持っている金融資産を単純に引いて純債務を計算するとGDPの六四%に過ぎない。この数字はOECD(経済協力開発機構)諸国と比べても、とくに悪いわけではない。純債務で見るなら、日本の財政事情はOECD並み(五〇%程度)であって、破綻とは程遠く、十分維持可能である。しかしこのまま何もしないと本当の危機が来る。GDPの伸び率が高齢化に伴って年金医療費などの伸びよりも高ければ、危機や破綻も生じない。

▼財務省は「基礎的財政収支均衡目標」と「金融行政三点セット(ペイオフ、時価会計・減損会計、自己資本比率規制)による金融機関締め付け」という新自由主義、市場原理主義を理念とする財政政策をここ一〇年主導してきた。
「税収の範囲内でしか財政支出はしない」という基礎的財政収支均衡策は、預貯金が民間投資を大幅に上回るわが国の経済体質に反する政策で、これが一〇年にも及ぶデフレ、国民窮乏化をもたらした。アルゼンチンは基礎的財政収支均衡策を実現した挙句、政府の国債償還ができなくなり、国家財政が破綻した。
 病床の大きさに合わせて患者の手足を切断する、あるいは癌は切除したが患者は死んだ、とまったく同様の愚策である。経世済民という経済の本義を忘れ単なる数字現象に狂奔するわが国財務官僚たちの迷妄が政権交代後にもさらなる猛威を振るう気配が濃厚である。
▼わが国は需要が極端に不足している反面、国民の預貯金が民間投資だけでは使い切れないほど巨額となる体質を持っており、これを建設国債などで吸い上げて政府投資を行なわなくては継続的な成長を維持できない。衣食住という経済の実現象よりも、マネーによる数字現象を優先させる財政当局の本末転倒の愚かな策を、何よりもまず正さなくてはならない。  (青不動)