常夜燈索引

                    

  普天間問題の核心にある利権構造 
         (世界戦略情報「みち」平成22年(2670)4月1日第313号) 

▼大正年間から昭和前期にかけ、帝国陸軍軍人が憧れるポストがあった。佐官級の少壮軍人であれば、それは支那軍閥の軍事顧問になることであった。俸給は将官並みで、ときには陸軍大臣クラスの待遇を受ける者もいたという。張作霖の顧問を長く務めた町野武馬退役歩兵大佐は莫大な財産を築き、戦後も吉田茂の指南役として政界に隠然たる力をふるった。
 支那軍閥の日本人顧問は単なる軍事アドバイザーではなく、帝国陸軍で不要となった中古武器の売込役でもあった。日露戦争以後滞貨となって払い下げられた旧式の武器は三井、大倉、高田商会が出資して作った武器専門商社の「泰平組合」が一手に売り捌きを担当し、支那大陸はもとより、アフガニスタン、ペルシア、中南米にまで販路を拡大した。昭和一四年に陸軍の肝煎りで設立された「昭和通商」はその後継会社である。
 支那では多くの地方軍閥が抗争を繰り広げたが、これを助長、拡大させたのは日本人軍事顧問の存在と武器商社「泰平組合」から供給される豊富な兵器が一因だったといえよう。それだけに兵器購入への発言権を有する日本人軍事顧問の役得は相当なものだったことが推測される。皆が軍事顧問になりたがった由縁である。
 将官級軍人憧れのポストは関東軍司令官だった。陸軍大臣や参謀総長より人気のある地位で、その決定には入札がなされたとも言われるほどであった。
 白川義則(一九二三~一九二六)、武藤信義(一九二六~一九二七)、村岡長太郎(一九二七~一九二九)、畑英太(一九二九~一九三〇)、菱刈隆 (一九三〇~一九三一)、本庄繁 (一九三一~一九三二)、 武藤信義 (一九三二~一九三三)、南次郎(一九三四~一九三六)、植田謙吉(一九三六~一九三九)梅津美治郎(一九三九~一九四四)など綺羅星のごとき将星が歴代の司令官を務めており、男爵位を賜った者も少なくない。
 遼東半島関東州を支配する関東軍は張作霖爆殺事件や柳条湖事件を引き起こしたことから明らかなように、東京の軍中央からも独立した治外法権的存在だった。ケシの栽培地でありかつ消費地でもある支那大陸要地を占める地の利を生かし、利潤率の高い阿片取引を差配した関東軍司令官以下の軍、関東庁幹部は内地の軍人、政治家、官僚たちの垂涎のポストであり、その利権を握った者が総理大臣の印綬を帯びるという風説まで立ったほどである。
 大正一〇年代に発覚した「大連阿片事件」は、前樺太庁長官の平岡定太郎が逮捕され、その黒幕だった原敬元首相など大物の名も取り沙汰された疑獄事件だったが、実は関東軍が握る阿片利権をめぐる内紛だった。
▼普天間基地に駐留する米軍海兵隊の移転問題が紛糾している。
 普天間基地を抱える伊波洋一宜野湾市長は、米軍の公開情報の分析や、グアムの米軍幹部との折衝を通して、「アメリカ軍は普天間基地をグアムに全面移転する計画で動いている」と主張している。
 海兵隊のグアム移転が司令部中心という日本政府の主張は間違いであり、沖縄海兵隊の主要な部隊が一体的にグアムへ移転する。普天間飛行場の海兵隊ヘリ部隊も含まれる。それは公開情報から明らかである。
「再編実施のための日米のロードマップ」(二〇〇六年五月一日)にはこう述べている。

 約八千名の第3海兵機動展開部隊の要員と、その家族約九千名は、部隊の一体性を維持するような形で二〇一四年までに沖縄からグアムに移転する。移転する部隊は、第3海兵機動展開部隊の指揮部隊、第3海兵師団司令部、第3海兵後方群、司令部、第1海兵航空団司令部及び第12海兵連隊司令部を含む」「沖縄に残る米海兵隊の兵力は司令部、陸上、航空、戦闘支援及び基地支援能力といった海兵空地任務部隊の要素から構成される。


 二〇〇六年七月には太平洋軍司令部が「グアム統合軍事開発計画」を策定、同年九月にホームページで「海兵隊航空部隊とともに移転してくる最大六七機の回転翼機と九機の特別作戦機CV22航空機用格納庫の建設、ヘリコプターのランプスペースと離着陸用パッドの建設」と述べ、普天間飛行場の海兵隊ヘリ部隊はグアムに移転すると明言しているのだ。
▼米軍中央はグアム移転を規定方針としているにもかかわらず、日本政府、特に外務省、防衛省は沖縄県内キャンプシュワブへの移転に固執するという不思議な構図が昨年八月まで続いた。
 在日米軍、とりわけ沖縄駐留米軍の幹部ポストは在外米軍中最高の利権ポストといわれている。毎年二千億円前後の「思いやり予算」を日本政府から給付され、物資調達、施設工事などにも絡んでくる。そもそも日本の警察、検察、国税、出入国管理の権限が及ばない米軍基地という治外法権地区そのものが巨大な利権を生み出す源泉なのだ。
 関東軍化した沖縄米軍、これと固く結ばれた外務省と防衛省、そしてわが国のスーパーゼネコンという三者が織りなす鉄の利権構造こそが普天間問題の核心なのである。     (青不動)