常夜燈索引

                    

  ── 総理、大変です! 
   (世界戦略情報「みち」平成22年(2670)5月15日第316号) 

▼「沖縄に駐留する米海兵隊の目的は、朝鮮半島、台湾、あるいは東南アジア諸国における米国の権益を維持・確保するため、簡単に言えばこうした地域の在外アメリカ市民の救助やアメリカ権益を守るための緊急展開部隊ということじゃないのか?」
「ええ、総理」
「そうだとすると、日本を守るための抑止力とは言い難いのじゃないか」
「…………」
「それに、航空機の航続距離が延びており、軍事技術も進んでいるのだから、有事の際グアムやテニアンから駆けつけても間に合うようになっているんじゃないか」
「たしかにそうですが……」
「したがって、海兵隊が沖縄に常駐する必要が薄れてきているのではないかと私は思っているんだ」
「…………」
 ──総理、大変です!
「どうした!」
 ──さきほど中国東海艦隊所属、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦二隻、フリゲート艦三隻、キロ級潜水艦二隻、補給艦一隻など、計十隻が沖縄本島南西約一四〇キロを航行、警戒中だった我が海上自衛隊護衛艦「あさゆき」に対し、同艦隊ヘリコプターが九〇メートルの距離に接近、威嚇を行いました。さらに同艦隊はわが国最南端の沖ノ鳥島近海にまで入るものと思われます。
「なんてことだ、私は先日胡錦濤中国国家主席と東シナ海を友愛の海にしようと固く誓い合ったばかりなんだが」
 ──総理、大変です!
「またか、どうした?」
 ──ただいま韓国海軍の哨戒艦天安(チヨンアン)が黄海上で爆破され、沈没しました。
「誰の仕業だ」
 ──北朝鮮の魚雷によるもの、との推測が出ておりますが原因は不明です。
「総理、三八度線で万が一戦火があがりますと、三万人の在留邦人の救出は我が自衛隊では不可能です。海外派兵の根拠法がないからです。やはりアメリカ海兵隊に頼むしかありません」 
「……そうか、それが現実か」
▼「沖縄に在日米軍基地の七五%が集中していることは私はおかしいと思う。やはりすべての日本国民が沖縄の痛みを分かち合うことが必要ではないのか。したがって沖縄に近い九州各地の自衛隊基地に一部米軍兵力や訓練場を分散させるべきだ。宮崎県の知事も積極的に米軍を誘致したい、と先日話していた」
「総理の仰るように、たしかに自衛隊基地ならば、自衛隊部隊を移動させてそこに米軍が入るだけですから、法的に問題はないですね」
「さっそく九州各県に当たってくれないか。宮崎県の新田原基地(空自)は普天間の二倍近い面積があり、二千七百メートル滑走路が二本もある。鹿児島県の鹿屋基地(海自)には二千二百五十メートルと千二百メートルの滑走路二本があり、規模も大きい。長崎県には大村基地(海自)もあるな」
「わかりました、防衛省と各県知事と連絡を取ります」
 ──総理、大変です!
「どうした」
 ──宮崎県児湯郡都農町と川南町で牛と豚の口蹄疫が発見されました。
 ──感染が拡大し、宮崎県と鹿児島県の県境の町えびの市でも発見されました。七万頭を超える牛、豚を殺処分し、宮崎県、鹿児島県、熊本県、大分県での牛・豚及び関係者、車両の移動を制限し、厳戒態勢で防疫に当たっております。
「総理、南九州は北海道と並ぶ全国有数の畜産地帯です。地域にとって口蹄疫撲滅は死活問題です」
「すると、いま基地移設の問題を持ち出すことは出来ないと言うことか?」
「当然です総理、畜産農家の皆さんが懸命に戦っているときに、米軍基地移設など、不謹慎です。ちなみに新田原基地は宮崎県児湯郡新富町にあり、口蹄疫が発生した都農町と川南町は隣町です」
「……わかった」
▼「私はオバマ大統領に、アメリカ建国やフランス革命の理念である、フラタニティ・友愛の精神でトラストミー、私を信じてくれ、普天間問題を解決するから、と言ったんだ。オバマも深く頷いていた。それのどこが悪いと言うんだ」
「いえ、連隊長は総理の崇高な理念は分かっているのですが、長年のアメリカとの同盟関係が損なわれると国益に反するのではと、憂国の情からあのような……」
「そんな憂国の情を持つ隊員が他にもいるのか。シビリアン・コントロール体制にあって由々しき問題だ」
 ──総理、大変です!
「大変ばかりだな、どうした」
 ──総理のお祖父さま鳩山一郎総理のお墓に黄色のペンキが撒かれました。
「なんだと、酷いことをするな」
「実は、自衛隊内にも不穏な動きがありまして……。総理、警備人員を倍にします」
「……すべては偶然なのだろうか?」
「すべて偶然です、総理!」
(青不動)