常夜燈索引

                    

  グローバリズムの寵児大久保長安 
          (世界戦略情報「みち」平成22年(2670)7月1日第319号) 

▼平成一九年、島根県大田市にある石見銀山が「東西文明交流に影響を与え、自然と調和した文化的景観を形作っている、世界に類を見ない鉱山」として、ユネスコ世界遺産に登録された。
 石見銀山は、鎌倉時代に中国地方の大内氏により採鉱が行なわれていたが、本格的な開発は大永年間(一五二一年~二八年)に入ってからである。
 明との貿易で巨万の富を築いた筑前博多の豪商神屋寿禎が出雲に向け航行中、石見の海のはるか南方の山が赤く光っているのを見て船子に何だろう、と尋ねたところ、以前銀を産出していた石見の銀峯山だ、と聞かされ、特に今日の光はいつもの一〇倍以上の輝きで、再び銀を生み出す予兆ではないか、と言われて再開発が始まったとされている。
 神屋寿禎は博多から宗端と桂寿という銀精錬の専門家である渡来人を連れて来て灰吹法による銀精錬を成功させ、効率的な産銀体制を確立した。
 精錬された灰吹銀はソーマ銀と呼ばれ、鉛の含有量が低い高品位の日本産銀ブランドとして支那大陸はもとより、スペイン、ポルトガルでも商取引に使われた。イギリス商人やオランダ商人は、日本産銀をソモ、ソーマと呼んだが、これは石見地区の銀鉱のあった「佐摩」から来ているといわれている。わが国では、その後の徳川時代、慶長丁銀として西日本を中心に基本通貨として流通した。
 当時世界の銀生産量の三分の一が日本産であり、さらにその半分が石見銀山から産出されたもので、世界の銀の六分の一の産出量を誇っていた。世界的な銀産出地としてヨーロッパでも有名で、スペインのペルー副王領ポトシ(ボリビア)のセロ・リコと並び称せられ、当時の航海地図(ポルトラーノ地図)にも石見銀山は記載されていた。
▼関が原で勝った徳川家康は慶長五年(一六〇〇)、石見の江の川以東を直轄領とし、翌六年に大久保長安を初代銀山奉行に任命した。
 大久保長安は金春座の猿楽師を父とする異色の経歴の持ち主で、独学でポルトガル流の技術を使った探鉱法を編み出し、甲州武田領の黒川金山などの隠し金山の開発に当たった。
 石見銀山では、ポルトガル伝承の「水銀流れ」、いわゆるアマルガム法で、長安は莫大な銀生産を成功させた。これは、銀を含む鉱石を砕き、溶かして水銀を加えると銀が水銀に溶け、アマルガムと呼ばれる合金となり、その不純物を濾過した後に加熱すると水銀のみが蒸発し、精錬された銀となるもので、蒸発した水銀を吸い続けると、水銀中毒から死ぬ坑夫が多数に上ったという。
 長安は慶長八年、家康が征夷大将軍に任ぜられると、家康より石見守、佐渡奉行、所務奉行(勘定奉行)、年寄(老中)に任命され、全国の金銀山、財政を一手に掌握、その財力は膨大なものだったという。また七人の息子に石川康長、池田輝政などの娘を娶り、松平忠輝、伊達政宗とも親密な関係を築いた。
 長安は家康の寵臣本田正信一派と対立、不正蓄財、奢侈などを非難され、晩年は全国の鉱山からの採掘量も減少して家康の信任を失い、代官職を次々に罷免され、六八歳で死んだ。長安の死後、七人の男児は処刑され、縁戚関係にあった諸大名も改易処分に遭うなど、長安関係者は徹底して摘発、処罰された。家康はそれでも収まらず、埋葬された長安の遺体を暴き出して斬首し、さらに駿府城下の安部川の川原で晒首にした。
▼長安が石見で応用したアマルガム法はポルトガル人から直接学んだもので、長安は秋田県雄勝町の院内銀山開発にも岩見姓を名乗る多数のキリシタン(ポルトガル系)技術者を送り込んでいる。また長安の財力の根源は、ポルトガル商人との銀売り、生糸買いによる利鞘稼ぎであり、ポルトガルとの関係には深いものがあった。
「九州にいるキリスト教徒たちが結束して家康を倒すため必要とするポルトガル軍艦、軍勢の日本派遣を要請する。計画が成功すればローマ法王の福音となるであろう」
 慶長一六年(一六一一年)オランダ軍艦が拿捕したポルトガル船から発見されたポルトガル国王宛密書にはこう記載されており、オランダ船は幕府に内容を通報した。
『当代記』という文献に、長安一族処断後、大久保の八王子城の寝所の床下から金蒔絵の文箱が発見され、その中から「日本にキリスト教を広め、ポルトガルの軍隊を引き入れて松平忠輝を将軍にし、自分は関白となる」という書状が出てきたと書かれている。
▼神屋寿禎も大久保長安も支那やポルトガルなど同時代の覇権国が推進したグローバリズムの寵児として一種の宮廷ユダヤ人(ホーフ・ユーデン)の役割を務め、藩や幕府財政を富裕にさせたが、さらにその先に国を売渡す使命を帯びていて、寸でのところでわが国は国難を回避してきたといえよう。
 昨今、日本と華僑の金塊を、価値を失ったドルの裏打ちにしようという怪説が跋扈している。わが国には未開発の金銀が多く眠っており、歴史に学んで惑わない姿勢が肝要だ。(青不動)