常夜燈索引

                    

 核に依らぬスメロギの道を歩め 
       (世界戦略情報「みち」平成23年(2671)5月1日第337号) 

▼フランスのサルコジ大統領は三月一〇日、リビア反体制派「国民評議会」のマフムード・ジェブリル危機管理委員長とアリ・エサウィ外交担当をパリのエリゼ宮に迎えて会談し、他の主要国に先駆けて同評議会をリビア国民を代表する合法政府として承認した。さらにリビアへの軍事介入を決定し、英米をはじめとする国連安全保障委員会構成国にリビア領空への飛行禁止区域設定の安保理決議に向け精力的な根回しを始めた。
 その翌三月一一日、わが国東日本に大地震が発生、福島第一原子力発電所は地震と津波に襲われ大破した。
 二〇〇七年一二月、フランス政府・サルコジ大統領はカダフィ大佐を国賓として迎え、五日間の滞在中エリゼ宮の庭園に暖房付きベドウィン用テントを設けて歓待した。その三年後、サルコジは掌を返したようにリビアへの軍事介入を、渋る米国を説得して実行した。チュニジアの「ジャスミン革命」でのフランス外交の失態払拭、リビアの石油天然ガス利権確保、来年の大統領選への思惑など、様々な軍事介入への理由が世上あげられている。
 一九八八年にリビアが起こしたとされるスコットランド上空でのパンナム機爆破事件に対し、カダフィは一九九九年容疑者を引き渡し、二〇〇三年に被害者遺族に賠償金二七億ドルを支払って国家責任を認め、米国政府は二〇〇六年にテロ支援国家指定を解除し、リビアはカダフィ体制容認と引換えに欧米諸国に全面降伏の状態にあった。
 リビアは元来キレナイカ、トリポリタニア、フェッザーン三地域の対立が激しく、カダフィのような強権的体制によってしか統一を維持できないと言われており、西側諸国に白旗を上げた有数の産油国を率いるカダフィを倒す行為はパンドラの箱を開けたに等しい。すでにイタリア、フランスなど南欧諸国にリビア人難民が押し寄せ、EUはサルコジの強硬策の真意を訝っている。
 イスラエルはユダヤ系の出自といわれるカダフィの権力掌握以来、水面下で軍事支援を与えており、現在リビアで反体制派と戦っているウガンダ、スーダン、チャドなどの傭兵部隊はイスラエルの民間軍事企業が徴募した兵士だといわれている。イスラエル政府がエジプト・ムバラク政権の時と同様に、リビア・カダフィ体制の存続を強く望んでいることは明白である。
▼一九七二年首相に就任した田中角栄は、翌七三年一〇月に勃発したオイルショックを契機に、中東に代わるエネルギー源確保のため世界を駆け巡った。これを指南したのが、通産事務次官を務めた両角良彦(もろずみよしひこ)だった。ド・ゴール時代のフランス国立行政院で学んだ両角は官民協調経済、対英米自立、独自核保有のド・ゴール主義の実践を田中に提言し、田中も中山素平、今里広記、松根宗一ら資源派財界人、そして田中清玄などと共にエネルギー自立路線に突き進んだ。英国北海油田、インドネシアのロンボク油田、オーストラリアのウラン、フランスの原子力などあらゆるエネルギー資源、技術に手を出した揚句、田中の対米自立路線を嫌悪した勢力により金脈スキャンダルを仕掛けられ、わが国のエネルギー自立路線は挫折したかに見えた。
 ところが「原子力の平和利用」という防護服をまといながら、通産省=経済産業省、東京電力はわが国の電力の石油依存度を徐々に原子力発電に転換し、六ヶ所村というブラックボックスを通じてフランス原子力産業と緊密な関係を構築し、二〇〇六年には東芝が原子力業界の雄たるウェスティング・ハウスを買収して日本は世界最大の原子力大国となった。
 原子力大国は核大国でもあり、日本は原子力に関する技術覇権を握りつつ独自の核武装路線を歩んでいるというのが世界の常識であった。
▼日本と並ぶ原子力大国フランスは、パンドラの箱のリビアを終わりのない混乱に陥れることで大産油地帯である北アフリカ、中東地域に三〇年戦争をつくり出し、石油天然ガスに代わる原子力による世界エネルギー覇権を握ろうとした、まさにその瞬間に三・一一事件が起こり、その帰趨は予測不能となった。
 主体思想の国・北朝鮮は、幻の日本の独自核武装路線に随順していたが、三・一一事件勃発で宗主国が揺らぎ、国家方針の立て直しを余儀なくされ、ジミー・カーター元米大統領を招いた。カーターは米国海軍で原子力潜水艦の開発を担当し、カナダで一九五二年に起きた実験炉の冷却水漏れ事故の処理にも参加した原子力技術者である。
▼わが国の原子力大国路線を資金面で支えた九電力体制、なかんずく東京電力は左右両翼、ミニコミ、白黒ジャーナリズム、裏社会などあらゆる闇の部分に資金を還流させた合法と非合法の間に立つ租界的特権企業だった。
 田中角栄や両角良彦たちが夢想した日本の対米自立路線の志を、いつしか後継者たちは忘却し、原子力村に棲息するゼニカネだけの亡者と化した。核に依らぬスメラギの道を歩めとの神意を感じ取ることができる素直な日本人でわれわれはありたい。(青不動)