常夜燈索引 

                    

 宝籤 ── その巨大なる暗部 ① 
      (世界戦略情報「みち」平成24年(2672)2月15日第354号) 

▼西田敏行から木村拓哉に代わったといえばわかるだろうか。テレビCM等無縁という方には三億円が五億円になったというべきか。宝籤の話である。
 わが国の宝籤は寛永元年(一六二四)の摂津箕面山瀧安寺の富会に始まるとされる。原形の箕面富は平安末期には存在したようで、一〇〇〇年近い歴史がある。元禄五年(一六九二)に五代将軍綱吉が富突講を禁止したことからも富籤の人気が窺い知れる。しかし財政が逼迫し寺社援助が出来なくなったことから、綱吉は一〇年後には谷中の感應寺発行の富籤を公認。寛政八年(一七九六)には一一代家斉が再度富籤を全面禁止としたが、一五年後の文化八年には目黒の瀧泉寺、湯島天神、谷中感應寺の三富だけを認可し、その興業利益を幕府が独占する。
 天保七年(一八三六)に起きた天保騒動や翌年の大塩平八郎の乱、天保一一年の阿片戦争といった内外情勢の中、一二代家慶の下で幕府財政再興を目指して天保の改革が断行され、その一環として幕府は天保一三年に富籤を再々度全面禁止としている。その二六年後の明治元年、新政府は太政官布告で富興業を厳禁、明治一五年(一八八二)の刑法施行により、各地に残っていた小さな富突を含め宝籤は日本から消滅した。
 次に宝籤が登場したのは日本統治下の台湾だった。日清戦争で台湾を割譲された日本は、抗日運動を制圧し全土を完全掌握したところで後藤新平を民政長官に据え特別統治主義に基づいた政策を実施する。こうした状況下、台湾総督府の財政不足を補うため、また大陸から正貨(金)を吸い上げることを目的として明治三九年の秋に台湾彩票という宝籤が登場する。
「何しろ台湾総督府が官営を以て彩票の売出しをやろうという訳で彩票局規定や彩票施行規則などが発布され、時の専売局長宮尾舜治氏が彩票局長に兼任となった、斯うした大仕掛で堂々と彩票の発行と売出しを始めたのだが、人気は全部之に集中し此の位大衆を唸らせた官の仕事はなく富籤の是非論よりも一等五万円に当選したらどうしようという話の方が全台湾を支配した」(台湾日日新聞紙面より)
▼昭和一二年(一九三七)、時局産業用と公債消化の資金確保のため臨時資金調整法が施行され、日本勧業銀行が貯蓄債券を発行できるようになる。その後のインフレ状況下、同法の改正が数度に渡って繰り返され、その度に報国債券、貯蓄券、割増金附与金の募集が開始される。こうした発券事務の簡素化と、何より逼迫する戦費調達のため昭和二〇年四月には法改正で政府籤発行が可能となる。こうして終戦直前の昭和二〇年七月に政府発行富籤「勝札」が発売された。一枚一〇円、一等賞金は一〇万円だった。
 八月の終戦直後からのインフレ激化に対し、浮動購買力吸収を目的として政府は一〇月に富籤発行に踏み切る。翌昭和二一年六月に和歌山県復興宝籤を発行。併せて臨時資金調整法を再改正し各都道府県が独自に宝籤を発売することが可能になる。地方籤として最初に登場したのは福井県の「ふくふく籤」だった。
▼臨時資金調整法とは戦時下立法の典型で、ファシズムを支えた悪法である。公正な自由競争を阻害し、権力を握る官僚が統制する弊害があるとの理由で、GHQは昭和二三年四月、突如として臨時資金調整法を廃止させる。ところが奇妙なことにGHQは僅か三ヶ月後の七月に政府及び都道府県に対し宝籤発行を許可。その理由としてGHQは、インフレ抑制と政府、都道府県の財源獲得の一助と説明する。この理由は表向きのものであり、現実には日本を防共の砦とするために政策を変更した、極言すれば政府に飴玉を与えたと考えるべきだろう。
 昭和二四年の当選金付証票法の改正により、内閣総理大臣が指定する戦災都市が独自に宝籤を発売することが可能になる。昭和二九年には政府発行宝籤が廃止され、同年全国自治宝籤が誕生。さらに地方籤が連合され全国五地域体制が生まれ、万博、五輪、海洋博等の国家的事業に協賛する宝籤が登場。昭和五四年には市町村振興宝籤「サマージャンボ」、昭和五九年には国土緑化推進を掲げた緑化宝籤(グリーンジャンボ)が発売。この昭和五九年からインスタント籤、平成六年にはナンバーズ、平成一一年にはミニロト、平成一三年にはスクラッチといった異なる型の宝籤も次々に発売が始まった。
▼宝籤の売上金が年間一兆円近くに上がりながら、発売組織は一元化されたものでなく、自治体法に基づく協議会等とされ、発売計画、許可申請、事務の委託等はこの協議会等が共同管理、運営、執行している。これを最終的に許可するのは総務省(旧自治省←内務省)であり、許可権限を持つ総務省が途轍もない権益を保有していることが理解できる。日本の省庁序列の頂点は予算を握る財務省とするのが一般認識だが、金融関係者は総務省を序列第一位に置く。このことからも、宝籤が抱える闇には想像を超えた暗部があると予想できよう。(黄不動)