常夜燈索引 

                    

 宝籤 ── その巨大なる暗部 ② 
      (世界戦略情報「みち」平成24年(2672)2月15日第354号) 


▼天神ウラノスは自分の子供達を嫌い大地に閉じ込める。怒った妻、大地の神ガイアは、鎌を末子クロノスに授ける。魔法の鎌で性器を切り取られ追放されたウラノスはクロノスに呪いの予言を吐く。「汝自身も己の子に権力を奪われるだろう」。
 美女神レアを攫い妻にしたクロノスは父の言葉を怖れ、生まれてきた子供達を呑み込んでしまう。最後にゼウスが生まれたとき、レアは偽って石を呑ませ、密かに育てられたゼウスは兄弟を助け出し、クロノスを闇の世界に封じ込める。こうしてクロノスの時代は終わり、ゼウスが天を治め、ポセイドンが海をハーデスが地下冥界を治めるオリンポスの神々の時代が到来する。
 これはギリシア神話の物語で、ローマ神話ではクロノスはサトゥルヌスと呼ばれ、暴神であり大地の神とされる。ハーデスは冥界の王でありながら豊穣神として尊敬もされる。
▼クロノス、ハーデスという企業は宝籤と密接な関係がある。クロノスは平成一三年に宝籤の企画販売を行なう日宝販が商号変更した会社で、平成一五年に社名を勧翔と変更し、三日後に再度クロノスという名で分割設立されている。勧翔は宝籤とは無関係に見える不動産業務等が中心となり、分割設立された新クロノスは宝籤売場ボックスのレンタル業の会社。宝籤の封入封緘販売、当選金支払受託、システムの企画設計開発運営等、日宝販が行なってきた主業務を行なう日本ハーデスが設立されたのは平成一一年一二月。第一勧銀、富士銀行、日本興業銀行の三行合併発表が平成一一年八月、みずほ銀行誕生が平成一四年四月。日宝販、クロノス、日本ハーデスの動きはこれに連関する。日本ハーデスの歴代社長の経歴を見ると、初代井上時男は第一勧銀企画部長、秘書室長、日宝販社長、クロノス社長等を歴任したが、井上を含め現任の宮本裕に至る九人の代表取締役全員が第一勧銀、みずほの要職とクロノスの社長や重役という経歴を持つ。父を倒し子に倒されたクロノス、冥界の王にして豊穣神であるハーデスという社名の名付人は神話に隠された意図を熟知していたに違いない。
▼刑法第一八五条賭博罪、第一八七条富籤発売取次の禁止条項通り、わが国では宝籤は法律上禁止されている。だが地方財政資金調達を目的とした「当せん金付証票法」及び地方自治法第二五二条二項の規定に基づき、定められた協議会は宝籤の計画、許可申請、事務委託を管理運営できる。これを許可する総務省(旧自治省旧内務省)が莫大な権益を有するのは当然で、宝籤利権構造に群がる官民の構図は正に冥界の縮図である。宝籤普及の宣伝効果等の調査を目的として昭和五三年に設立された大幸企画(旧社名宝企画)の歴代役員に自治省次官が名を連ねるのは官民癒着の構図として理解しやすいが、宮内庁長官を初めとする宮内庁人脈までが入っており、冥界の深みが推察できる。日本ハーデスの前身である日宝販が大都市毎に分割設立したエムエルシー、ワイエルシー等々と星の数程存在する企業は一般には馴染みは少ないが、宝籤に繋がる官民が群がる秘密の花園なのだ。この宝籤利権構造を構築した人物は、後に取締役宝籤部長と呼ばれた片岡一久である。片岡一久が日本勧業銀行台北支店に入行したのは二・二六事件が起きた直後の昭和一一年四月。台湾総督府が大陸の正貨を吸い上げる目的で発行した台湾彩票は過去の遺物となっていたが、片岡はその魔力に取り憑かれる。
 昭和一七年二月、英軍を無条件降伏させた日本はシンガポールを昭南島と改名しマレー半島を軍政部の支配下に置く。戦費獲得のため七月に昭南証券という宝籤を発売したが失敗。本店で戦時債券部に異動となっていた片岡は南方経済調査団の一員に抜擢されマレー軍政部を訪問。昭南証券失敗の原因が当選金返還率の低さ(三〇%)にあると看破し、これを倍増させて翌年四月に興南証券という宝籤を発行。これが大成功を収め、六月に二回目を発行。以降終戦まで二七回、毎月五〇万枚を発行し続けた(昭和二〇年八月発行の最終回は抽選も当選も無し)。
戦後片岡は国内各支店を歴任後、昭和三四年に宝籤部長、同四二年に取締役就任。以降片岡による宝籤利権構造が構築される。片岡が取締役となった年に日本宝くじ販売(株)が設立(後の日宝販)され、片岡は昭和四五年に日宝販会長に就任する。
▼宝籤の収益は都道府県及び指定都市が独自に行なう公共事業、環境保全、創造事業等に三六〇〇億円が回され、一般市町村には五七〇億円が附与される。受託銀行には事務委託費として一四八〇億円が支払われている(総務省自治財政局発表)。現実には協議会はこの八割近くを販売会社、促進広告会社、作成・整理・管理等々といった企業に丸投げする。行政刷新会議は宝籤関連八事業を廃止と判定、天下り役員の高額給与等の解消を謳ったが、民間企業間の商取引に踏み込むことはできない。片岡一久が構築した冥界の闇は今日なお射幸心を煽り庶民のカネを簒奪し続ける。(黄不動)