常夜燈索引

                 

  メキシコ恐竜土偶の謎 上 
     (世界戦略情報「みち」平成25年(2673)7月1日第385号) 

▼三月に五八歳で他界した漫画家いわしげ孝の代表作の一つに『ジパング少年』がある。昭和末期から「ビッグコミックスピリッツ」誌に連載された作品で、まっすぐに生きる熱血少年が主人公。高校を退学になり南米の黄金郷を探し求める旅に出て、そこで体も心も自分達とそっくりな人々と出会い衝撃を受けるといった内容が描かれる。
 三万年ほど昔にバイカル湖辺りにいたモンゴロイドの一群が、氷期には地峡だったベーリング海峡を越えて北米大陸に渡り、南下して南米に入ったとする説は、かつて常識の範疇だった。最近ではこの説は少数派となり、グリーンランド経由でコーカソイドが入ったとする説や、ポリネシア人が太平洋を渡ったとする論、アフリカ大陸から直接南米に行き着いた説等が入り乱れている。縄文人が太平洋を渡ったとする論にも賛同者は多い。古代、超古代に関する諸説は所詮全て仮説に過ぎず、真実は遥か彼方の闇の中に眠っている。
▼最近メキシコのユカタン半島東部の密林で一五基の新たなピラミッドが発見され(六月二〇日)、一部の古代史通には衝撃的な話題となった。凡そ一〇〇〇年前のマヤ文明最後期に建造されたものとされ、近くには同時期に作られ世界遺産にもなっているチチェン・イッツァのピラミッドもある。世界中のあちこちに歴史の常識を根底から引っくり返す遺跡や遺物が山のように眠っているのだろうが、中南米にはとくに期待が寄せられる。熱い視線が注がれるのは地上絵や空中都市が存在するペルーだ。マチュピチュは一五世紀に建設されたインカ帝国最後の都市で、それほど昔のものではないが、ナスカの地上絵は紀元前二〇〇年から紀元二〇〇年頃に描かれたナスカ文明(古アンデス文明)のもの。この二つを含め、ペルーでは全部で一一の遺跡や公園等が世界遺産に登録されている。その中でも注目すべきは南北米大陸最古の都市とされるカラル遺跡だ。この都市は五〇〇〇年以上も前に作られたとされるが、二〇〇八年には近郊からエジプトより数百年早く建造されたともいわれるピラミッド群が発見されている。
▼マヤやインカという古代文明の匂いが残る中南米には怪しい遺物が無数に存在するが、偽造品も多い。そうした一つに一九六〇年代に発見されたカブレラ・ストーンがある。地元の医師カブレラ博士が集めた一万二〇〇〇個にも及ぶ石だが、そこには脳外科手術の様子や天体模型等が細く鋭い線で彫られていた。わが国でもTVで紹介され、考古学の常識を覆す大発見と騒がれたものだった。プレインカの墓に納められた副葬品に同様の石があること、石の文様が一万二〇〇〇年前に彫られたとする科学鑑定結果が発表されたことで信憑性が高まったのだ。しかしその後BBC放送にカブレラ・ストーンを製作した人物が登場して真相を暴露し、一気に熱が冷め、誰もが忘れ去ってしまった。カブレラ・ストーンの一部は本当に超古代の遺物だと主張する者もいるが、少なくとも常識を覆すような衝撃的な図柄は全て偽造品である。
 カブレラ・ストーンの中には人類誕生の遥か以前の六五〇〇万年前に絶滅した恐竜が描かれていたものもある。製作者の知識水準を疑いたくなるような絵で、これ一つを見ただけで偽物と断定できる。カブレラ・ストーン同様に恐竜を素材とした土偶がメキシコで発見されており、こちらも誰もが言下に莫迦げた偽物と断定できる代物と思える。ところがである。現実にはメキシコの恐竜土偶は深い謎に包まれているのだ。
▼ドイツ降伏で欧州戦線の幕が閉じ、極東で大日本帝国が最終局面を迎えつつあった一九四五年七月、メキシコの片田舎アカンバロに住むドイツ人実業家が奇妙な土器を発見した。数十個が纏まって埋まっており、近隣からも同様の土器が数十、数百単位で発掘された。祭礼や生活用具、武器、楽器を象った土器の中には動物や神獣、或いは明らかに恐竜としか考えられない土偶が存在し、その総数は三万二〇〇〇個に及んだ。しかし、人類誕生の数千万年前に滅んだ恐竜の土偶など常識では考えられない。周囲の冷ややかな視線の中、発見者は寂しくこの世を去る。
 その数年後に事態が一変する。地質学者ハプグッド教授が恐竜土偶に興味を抱いて、自ら戦前に建築された地元警察署長の家の床下から土偶を掘り出し本物である可能性を主張。さらに米アイソトープ社に依頼して土偶の製作年代を測定したところ、紀元前一一〇〇年から四五〇〇年の間に跨る様々な時代の遺物と結論された。教授とは別に、ヘリコプター設計者として名高いA・ヤングがやはり土偶に興味を持ち当時開発されたばかりの熱ルミネッセンス法で三個の恐竜型土偶を測定し、製作年代が紀元前二五〇〇年(+-二五年)という結果を出した。鑑定責任者F・レーニー博士の鑑定書は言う。

「メキシコ考古学界の見解や真贋論争の結果がどうであろうと、アカンバロ土偶の年代測定については当研究所が責任を持つ」

 では、この土偶は本当に恐竜を目撃した古代人が製作したものなのだろうか。(つづく)