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  秘密保護法と日本版NSCの深奥 
        (世界戦略情報「みち」平成25年(2673)12月1日第394号) 

▼昭和一二年七月七日、北京郊外盧溝橋で夜間演習中の日本軍に向かって支那兵が実弾を発射。これが支那事変の発端である。戦争と規定すると国際法により第三国は中立を貫かねばならず、国際的孤立を嫌った日支両国は揃って事変と呼称。昭和一二年九月の閣議で「之ヲ支那事変ト称ス」と定めた。戦後の学校教科書は日華事変と表記し、昭和五〇年代以降徐々に日中戦争と書き換えられている。
 昭和一六年一二月八日に日本軍はマレー半島並びにハワイ真珠湾を攻撃。四日後に大東亜戦争という呼称が閣議決定された。以降三年八ヶ月余、軍も国民も大東亜戦争を戦い抜いた。昭和二〇年八月にポツダム宣言を受け容れ、日本は占領下に置かれる。九月にGHQはプレスコード(日本新聞遵則)を定め報道の検閲を開始する。連合軍批判、原爆被害状況、戦時用語禁止等対象は三〇項目とされた。終戦直後の占領軍の命令に報道各社は怯え、神国日本、大東亜共栄圏等の文言を封印した。一二月に入ると各社は一斉に大東亜戦争を太平洋戦争と言い換える。昭和二七年四月に日本は独立、主権を回復し、ポツダム宣言受諾に伴って発せられた法律法令は失効。全ての規制は解除された。然し報道各社が大東亜戦争を本来の呼称に正すことはなかった。では現政府はどう捉えているのか。「日本国政府としては大東亜戦争という呼称を変更していない」(平成一九年二月の安倍首相答弁)支那事変も大東亜戦争も、国家は一度たりともその名称を変更していない。
▼将来の日本を見据え国防軍創設の基礎作業を行なう願望は必然として生起する。通称「服部機関」に於いて沈着且つ隠密裏にその作業を進めた服部卓四郎だったが、昭和二五年に米軍から警察予備隊設立の命令が降りた頃から趨向は二転三転。日本軍再興を期待するウイロビー参謀部長に乗った服部は、最終段階で警察予備隊に旧軍関係者を徴用できず、国防軍創設の基礎計画は挫折する。背後にウイロビーとホイットニー民政局長の確執、或いは旧軍排除に動いた吉田茂の画策が端倪されるが、この辺りは阿羅健一『秘録・日本国防軍クーデター計画』(講談社)に詳しい。併せて湯浅博『歴史に消えた参謀 吉田茂の軍事顧問辰巳栄一』(文藝春秋社)からも戦後の情報問題の障礙が理解できる。辰巳といえば、内調や自衛隊の設立動向を密かに米国に送信していた事実が平成二一年に判明し、以来米諜報機関の走狗と思い込んでいたが、本書によると一概にそうとは言い切れない。吉田茂自身、憲法改正、再軍備を怠ったことを後に反省しているが、その闇は未だに晴れない。この二冊のどこにも書かれていないが、穿った見方をすれば日本の再軍備、殊に防諜機構が作られなかった真因は米国の圧力にあったと恐察する。
▼ソ連崩壊後の一九九二年にKGB職員ミトロヒンが六個のコンテナを持参して英国に亡命、機密文書を公開した。米CIAはミトヒロン文書を最高の防諜情報と評価し、概要は二分冊として刊行されたが、膨大量の枢要な機密は英MI6が握った儘である。刊行された文書中「日本」項には共産党、社会党だけではなく外務省中枢に諜報協力者を作り、企業内部に産業スパイを配置した様が見て取れる。報道各社に張り巡らされた工作網は凄まじく、新聞テレビを駆使した世論誘導に莫大な資金と労力が投入された。朝日、読売、産経等々大手新聞社中枢ではコードネームを持つソ連工作員が暗躍したが、殊に朝日は社会党機関紙より重視されていた。産経では保守派の牙城と目された上級記者がソ連叩きと見せかけたソ連礼賛社説を掲載した例も暴かれている。
 詳細は刊行された文書をお読み戴きたいが、報道各社に其々数十人単位のソ連工作員がいた事実には背筋が凍りつく。ソ連同様、いやそれ以上に米英仏、更には中韓が公務員、製造企業、報道各社に工作員、協力者の情報網を構築している事は容易に想像できる。
▼特定秘密保護法案は一一月二六日に衆院を通過。独立国家として当然の法ながら報道各社は総じて反対論を展開。参院通過阻止を目指し世論操作に血道を挙げている。一方、二七日には同法と対にある国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案が成立。一二月四日に四大臣初会議が開かれ、さらに来春早々には国家安全保障局が発足の見通しである。
 米国家安全保障会議を初め支那の国家安全領導小組、露連邦安保会議等々世界各国は同様の機構を持つ。戦前の日本にも同機能を持つ五相会議が存在したが、成員は首相、陸・海相、外務・大蔵の五閣僚。米NSCは正副大統領と国務・国防長官を主力とし国家安保問題担当補佐官以下参謀本部議長、情報長官等が加わる。今般の日本版NSCは首相、官房長官、防衛・外相の四名体制。その下部に六班六〇名の国家安全保障局が作られる。副首相も財相も加わらない体制に奇妙さが感じられるが、単に麻生を切り捨てただけか否か。その真意は測りがたい。(黄不動)