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  大震災救助と大空襲の因果関係 
         (世界戦略情報「みち」平成26年(2674)2月15日第398号) 

▼一九〇六年(明治三九)四月一八日早朝、サンフランシスコをM七・八の巨大地震が襲った。死者三〇〇〇人、四〇万市民の大半が家を失い、被害総額は五億ドル(現在価一兆円)に達した。前年九月に日露戦争に勝利はしたが財政逼迫状態だった日本は、この災害に対し国家予算の一〇〇〇分の一に当る五〇万円(現在価六五〇億円)の義捐金を醵出している。
 米国は古くから支那人を中心とするアジア系有色人種を極度に差別し、一八七〇年(明治三)成立の『米連邦移民帰化法』は米国帰化可能な人種を「白人及びアフリカ人並びにその子孫」と規定。一八八二年には『中国人排斥法』により中国人移民を禁止する。こうしたなか米政府は例外的に日本だけ移民停止措置を課さなかった。だが下部機構の州や市では日本人差別が公然と行なわれ、殊にカリフォルニア州における日本移民排斥運動は苛烈を極めた。日本政府がサンフランシスコ地震に支援国中最大額の援助金を捧持した背景に斯様な事情があった。だが、三日三晩燃え続いたサンフランシスコでは情報が遮断され、一般市民は日本の義捐金等を知らず、混乱の中で排日感情が高まり日本人に対する乱暴狼藉が後を絶たなかった。サンフランシスコ市当局は地震直後から日本人学童に対し東洋人学校への転校を命じる。この命令は翌年撤回されたが、撤回条件としてハワイ経由の米本土移民が禁止されることとなった。これが米国における排日運動拡大の分岐点とされる。
▼カリフォルニアの排日運動は日々強まり、サンフランシスコ地震から七年後の一九一三年には『排日土地法(カリフォルニア州外国人土地法)』が成立。市民権資格を持たぬ外国人の土地所有、貸借を禁止する法は日本人を対象とした法で、一九二〇年には『第二次排日土地法』が州議会を通過。日本人が米国生まれの子(米国市民)の名義で土地を取得すること、土地を所有する企業の社員、株主等になることを禁止し、農地の貸借権も剥奪。艱難辛苦の末に荒地を開墾した日本人農民の八割近くがこの時点で農地を手放し帰国している。
『排日土地法』はカリフォルニアの州法だが、一九二二年には米国最高裁が、既に帰化し米国籍を取得した日本人の帰化も無効と判決。「黄色人種は帰化不能外国人であり帰化権はない」。法の不遡及という国際法を無視、米国憲法第一条違反の判決だったが米国民はこれを熱狂的に支持。これに呼応するように米議会も日本人と結婚した者から米国市民権を剥奪する『ケーブル法』を制定する。
▼翌年九月一日の関東大震災の報を受けた米大統領J・C・クーリッジは直ちに大統領令を発布し、フィリピンや支那に寄港中の米アジア艦隊に救援物資を満載して横浜へ急行することを命じる。サンフランシスコ大震災支援に対する謝礼の意味が籠められ、大統領自ら全米に求めた義捐金は世界最大額となり、米国は世界最大の医療チームを派遣し、最大数の艦船と物資そして最も早く見舞い電報を寄越した国となった。クーリッジは二九代大統領ハーディングが心臓発作で急死し、前月三日に副大統領から大統領に昇格したばかりの新米大統領だったが、その熱意と誠意に日本中が感動し、大正天皇も直ちに謝意の電報を送っている。平成二三年の東日本大震災の際の米海兵隊特殊部隊を中心とする『トモダチ作戦』はオバマがクーリッジに倣ったものだという。
 明治三八年(一九〇五)の南満洲鉄道に関する桂ハリマン覚書の破棄、大正一〇年(一九二一)の日英同盟廃止決定、国内の排日運動の激化等重大な事案を抱え、米国には反日親日という単純な構図では説明不能の捩れた対立軸が幾つか存在した。大統領令に従い全力を挙げて被災国日本を救った米アジア艦隊の惻隠の情と、大震災の翌年七月に成立した『絶対的排日移民法』は表裏の一語で飲み込めるようなものではない。
▼昭和二〇年三月一〇日午前〇時七分、東京上空に飛来した米軍爆撃機三二五機から三八万余発の焼夷弾が投下された。機銃、弾薬が外され、限度一杯の油脂クラスター焼夷弾を満載したB29の当初目標四地点は深川、本所、浅草、日本橋。周辺から爆撃を開始し住民が中央に集結した時点で集中爆撃を敢行。炎が天に達する爆発的な火災旋風が発生し、一〇万人超が焼死している。この数字は一度の攻撃による人類史上最大の犠牲者で、被害地域と比率は関東大震災と完全に一致し、犠牲者数はそれを遥かに凌ぐ。爆煙は高度一万五〇〇〇メートルに達し、焼夷弾による大規模火災が地下噴出のガス誘爆に繋がった可能性を示唆する。関東大震災救援のため東京に到来した米軍が震災の被害実態を完全に掌握し、焼夷弾空襲によりその禍災を再現したことは間違いあるまい。米軍爆撃を想定しながらバケツリレーしか対策を考えなかった当時の日本と、三・一一東北大震災で福島原発事故を引き起こし、なお後始末に苦慮する現在の日本は、何処かに通じるものがある。 (黄不動)