みょうがの旅    索引 

                    

  シルビオ・ゲゼル「老化するお金」
        (世界戦略情報「みち」平成14年(2662)7月1日第143号)

●お金とは、いったい何だろう。お金はまず物と物を交換するときの媒介として登場した。これが取引に大へん便利だったので、やがて価値の尺度としても用いられるようになる。物の価値を貨幣の多寡で表わすのだ。ここまでなら、お金というものは、とても便利でいいことずくめだったことだろう。
 ところが、お金があまりに便利なものだと分かったため、価値を保存するという機能が加わってくる。お金を貯めるということである。そうなると、交換の媒体として使われるお金は少なくなる。すると、お金に対する需要が生じる。つまり、貯めこまれたお金は、ますます価値を増す。社会で生きていく限り、人間にはお金が必要だ。そこで、お金のない人は、利子を払ってお金を借りる。そして、お金は自然に反する存在となり、お金をもつ者が持たない者を支配する道具ともなる。
●つまり、お金にはいろんな機能が備わっているが、もっとも大事なのは物を交換する媒体となる機能である。ところが、価値を保存するという機能があるために、お金は本来の役目である流通に回されず、むしろ富として退蔵されるようになる。こうして、お金のもつ機能同士が衝突する。
 ところで、お金のもつ「価値を保存する」という機能は、「利子」と結びつくことによっていわば自己増殖する。お金をもっていればいるほど、お金はさらに殖えることになるのである。
●この世の中で、あるゆる物が時間の経過とともに変化し衰滅してゆく中で、お金だけが価値を減らさない。しかもお金は自己増殖する。これでは、おかしな事が起こるのが当然だ。シルビオ・ゲゼルはお金のもつ、このような反自然的な性格を突いたのだ。ゲゼルは「お金」についてこう言っている。

「いろんな商品は老化し、錆つき、損なわれ、砕ける。われわれが商品について語るこのような欠陥や損失に対応する物質的特質を貨幣がもつようになるとき、ただそのとき、貨幣は確実で迅速で安価な、交換の用具となるだろう。なぜなら、いかなる場合にも、どのようなときにも、貨幣が商品よりも好まれることはないだろうからである」

 ゲゼルの洞察は透徹していた。反自然的な存在として、人間の生活を苦しめるお金を、本来の便利な道具として使うにはどうすればよいか? ここから、「老化するお金」という発想が生まれてきた。
●世界恐慌に喘いでいたヨーロッパでゲゼルの「老化するお金」の最初の実験となった自由通貨「ヴェーラ」(Wära)には紙幣の裏面に一二の小さな桝が印刷されていて、その空欄に月ごとに額面の一パーセントに相当する額のスタンプを貼るようになっていた。つまり、ヴェルグルの「労働証明書」と同じく、一月に一パーセントずつ価値が減るというお金だったのである。
 ヴェーラはゲゼル理論信奉者だったハンス・ティムとヘルムート・レーディガーによって準備が進められ、ニューヨーク証券取引所のブラック・マンデーによって世界大恐慌が勃発した一九二九年一〇月、まさにその月に誕生した。ヴェーラ交換組合がドイツのエルフルトで設立されたのである。
 ヴェーラ交換組合の組合員はまたたく間に増えて、二年間に一〇〇〇社以上になった。組合員は当時のドイツ帝国のすべての地域に分布していて、その職種は食料品店、パン屋、酪農場、飲食店、自然食品店、肉屋、花屋、床屋、手工業品店、家具店、電機店、自転車屋、各種の工房、印刷所、書店、石炭販売店などさまざまな分野に及んでいた。
●このヴェーラを最初に町ぐるみ採用したのは、実はヴェルグルではない。ドイツのバイエルン地方の石炭鉱山町シュヴァーネンキルヘンだった。恐慌のあおりを受け閉鎖された鉱山の石炭を担保に鉱山主ヘベッカーが一九三一年にヴェーラを発行して鉱山を再開したのである。そして、人口五〇〇人足らずの小さな町に奇跡が起こった。(つづく)