みょうがの旅    索引 

                    

  孫崎享「日本の政策が危機的状況にある」
              (世界戦略情報「みち」平成21年(2669)4月1日第291号)

●孫崎享著『日米同盟の正体──迷走する安全保障』(講談社現代新書)を読んだ。本稿の表題は、巻末にあるその「あとがき」にある言葉である。正確には、こう書かれている。

 ……この本は分析を超えて主張する本である。それは現在の米国、それとの協調を進める日本の政策が危機的状況にあることを反映してのことである。日米双方、流れを変えることに真剣に取り組まなければならない時に来ている。論者の側に蛮勇が必要な時代となった。その時代を反映して、この本は主張する本となった。(二五九頁)

 では、孫崎享氏はどう主張するのか。本書を一読した曖昧な記憶だけを頼りに無理やり煎じ詰めると、こうなる。

①日米同盟は米国に有利な取引であり、日本の安全保障のために究極的には役立たない。在日米軍の主要目的は日本を無力化することにある。また、米国による核の傘はいざとなったら機能しない。米国が提供する核の傘は日本に核を持たせないためである。
②しかし、日米同盟以外に日本の安全保障における軍事的選択肢はない。日米同盟とは米国が提案し日本が協調するだけの関係をいう。つまり、米国が命令し、日本が従うだけの関係を同盟と言いくるめられているに過ぎない。
③日本の軍事的安全保障システムの要とされる「敵地攻撃論」も「ミサイル防衛論」も実は有効ではない。米国の提案に安易に従うと、高い買物をして無用のオモチャを持つだけだ。
④これまでは日米同盟の中核であった「日米安保条約」に代わって平成一七年一〇月二九日に日本と米国は「日米同盟…未来のための変革と再編」という文書に合意・署名した。これで日米の安全保障協力の対象とする範囲が従来の極東地域から世界全体へと拡大された。つまり日本は米国の命令で世界のどこへでも派遣され戦闘に従事し、死者を出すこともありうることになった。
⑤「核保有」も「米国による核の傘」も「敵地攻撃」も「ミサイル防衛」も有効でない日本の安全保障にとって現実的な選択肢は非軍事的分野にある。密接な経済関係は抑止力となり得る。
⑥日本にとって安全保障となりえない日米同盟によって米国に追随する以外の選択肢はあるのか。ある。例えばNATO諸国との協調関係である。その場合、米国の報復を覚悟しつつ、それをいかに凌ぐかを模索しなければならない。孫子のいう「上兵は謀を伐(う)つ」という戦略で米国に対処しなければならない。

 ざっと纏めたので遺漏があるかも知れないが、主な点は以上である。その立論に孫崎氏は一つひとつ論拠を挙げ事実をもって検証している。⑥にある孫子の「謀を伐つ」をまず率先垂範、自ら百尺竿頭の第一歩を進められたのが本書だといえよう。
●実は孫崎享氏の名前は本誌でも登場したことがある。本誌に貴重な論考を寄せて頂いている(不定期)孫崎紀子氏の夫君である。ウズベキスタン初代大使、外務省情報局長、イラン大使を歴任された外交官であり、防衛大学校でこの三月まで「危機管理論」などの教鞭を執られた教育者でもある。驚くべきことに、三月二〇日刊行となっている本書で、オバマ新大統領の政策に「改革」は期待できそうにないことも早々と語られている。危機的状況にある日本の安全保障を何とかせねばとの至情が緊急出版を可能にしたのだ。