みょうがの旅    索引 

                     

  先祖の祭りを絶やすまい 
     (世界戦略情報「みち」平成9年(2657)5月1日第29号) 

●この度、四月一九、二〇の両日、本誌のスタッフ五人は、四国の伊予三島市寒川町に招かれて話をさせていただいた。行基菩薩が天平年間に開基したと伝えられる真言宗の古刹新長谷寺のご住職長尾密乗師が、同寺の御影供(みえく)行事に集まる信徒の方々の前で話をするようにと招いて下さったのである。御影供とは弘法大師の御入定を記念する法要のことである。
 三橋は「即身成仏と最古の祝詞いろは歌」、藤原は「沖縄問題と日本の将来」、天童は「みちと社稷」というテーマで話をさせていただいた。
 長尾密乗師は前号「巻頭言」と本号「常夜燈」にもあるように、楠木正成が掲げた「非理法権天」という旗印の意味を教えて下さった方である。本誌も創刊号から読んで下さっている。帰京後に頂いたお電話でも、「部屋の中に籠もってばかりいないで、もっと方々に行って話をしなさい」と叱咤激励して頂いた。まことにありがたいことである。
●話をさせて頂いたご縁で、大勢の方々にお目にかかった。機械設備工事の仕事をなさっている(有)高橋組の高橋勝則社長からは、「一度仕事をした得意先から信用されて紹介してもらい、日本全国に仕事を頼まれ、行かない県は二つだけだ」という話を伺った。日本人の職人魂がここにも脈々と生きていると感じて嬉しくなった。
 また、(株)片岡機械製作所の片岡晧社長には、休日にも拘わらず、わざわざ大きな工場を開けて見学させて頂いた。片岡社長は独学で機械メーカーとなり、世界最高の巻取機械(スリッター・リワインダー)や包装機械および関連装置を次々に開発された。いずれも世界最高水準のものであるという。その証拠に、日本全国から注文が寄せられ、また「佐々木賞」「日本科学技術振興功労者省」「日本工業新聞十大新製品賞」など数々の英誉にも輝いて、独創性を評価されている。
●その片岡社長が最近開発されたのが「一族墓」である。平均出生率が一・四人の少子化時代を迎え、このままでは先祖の祭りが絶えてしまうことを憂えた片岡社長の発想から生まれた。一族がなるべく一つの墓に入って、いつまでも先祖の祭りが絶えないように、斬新な形のお墓と先祖供養のノウハウの提供とをワンセットにして、先祖の祭りをお手伝いしようというものである。
 巻取・包装機械の工場とは別に、一族墓を製造する工場も見せて頂いた。工場の庭に、いくつかのモデルが展示していある。大小に差はあるが形はほぼ同一で、上部に五輪塔を載せ、中部が骨壺を収める多角錐の筒状になっていて、下部は玉砂利を敷いた基壇、周りに石組みの垣囲いがある。
 骨壺を収めるスペースは相当広く何代にもわたって並べておける。いっぱいになったら古いものから玉砂利の中に埋めて、土に返すのだという。骨は消えても大丈夫。墓碑銘版に故人の写真と個人史が刻まれ、雨風に打たれても決して消えないようになっている。
●一族墓の資料を頂いて、帰ってから改めてじっくり読んでみて驚いた。何と、一族墓を建てる親族会議の呼びかけ状から、墓碑銘用の個人史の作成まで、すべて簡単な質問に答えれば出来上がるようになっている。とにかく、何とかして先祖の祭りを絶やさないようにという片岡社長の必死の思いが至る所に及んでいる。お参りしてくださる方のため、雨風を避ける名刺入れの箱まで考えてある。優しさに満ちたお墓なのである。今はまず自社で一族墓を製造して販売しておられるが、機械製造メーカーとしては、一族墓の製造設備およびノウハウ一式を購入して、各地域ごとに工場を経営しようという人の現われるのが、本来の形なのである。
●この一族墓の工場が各地に誕生して、一族墓がどんどん建って、このお墓を中心に先祖の祭りが連綿と続いていけば、夫婦別姓や無責任個人主義、アイデンティティーの危機などによって家族の解体をたくらむ世界権力およびタヴィストック研究所と雖も、日本人の心を滅ぼすことはできまいと思われる。