みょうがの旅    索引 

                    

 孫崎享『情報と外交』 ─ さらば「平和国家日本」 2 
              (世界戦略情報「みち」平成21年(2669)11月15日第305号) 

●前号でも紹介した孫崎享氏の近著である『外交と情報』を読めば、わが国がいかに国家として歪であるか、嫌というほどに伝わってくる。だが、それは本書では極めてさりげなく触れられているにすぎない。というのも、その歪さは出発点であって、当事者としてこれを如何に克服するかの手段を自らの体験を踏まえて孫崎ドクトリンともいうべき形で提示するのが本書の目的だからである。
 それは同時に、「外交と情報」ではなく「外交=情報」を信条として公務を貫いた孫崎享氏の生き方そのものを語ることでもある。一般大衆のみならず、国益を守るための任にある外交官や役人までも「平和ボケ」したわが国にあって、確かな情報に基づいて外交を行なうという至極当たり前のことが如何に困難であったか、行間から如実に伝わってくる。
●ぜひとも本書が、外交の分野に進み国益を守る任に当たる役人の卵たちの指針となってほしいものだが、専門家のみならず一般の読者にとっても必読の書であると確信する。というのも、今更言うまでもないことながら、平和とは不断の努力によって達成されるべき目標なのであって、すでにしてそこにある、与えられるようなものでは断じてないからである。国益もまた然り。孫崎氏は「わが国独自の守るべき国益はあるのか」と問いかけている。もしも日本の国益を守りたいと真剣に考える者は、今一度この問いを自らに問い直してみるべきだろう。それほどにも、「平和国家日本」なる幻想の病はれわれの膏肓に入りこんでいるからである。●先の日米首脳会談においてどれほど「対等な日米関係」が強調されようと、現実の日米関係は決して対等ではない。日米関係の実態は孫崎氏の前著である『日米同盟の正体』に詳しく書かれている。この関係を変化させるいかなる条約も結ばれていないし合意もなされていない。だが、本書に倣えば、米国がなにゆえ「対等な日米関係」を強調したい日本に同調するのか、その不自然な態度に秘められた意図を正確に読むことが大切である。
 按ずるに、盈(み)ちれば虧(か)ける月の譬えではないが、いずれ米国は墜ち日本は昇る。それも、大きな節目である皇紀二六七〇年すなわち来年を境として、劇的に変化することになろう。皇紀はそれほどに重要なのである。そして、その皇紀に従っている聖地たる日本に生まれた日本人がそうそういつまでも「平和ボケ」に罹って現(うつつ)を抜かしているわけがないではないか。日本が病を克服する際には、ここでは一つ一つ列挙することはしないが、孫崎氏が本書に挙げられた十ヶ条が、いわば常識となり具体的な政策課題となる。それも、それほど遠い将来のことではないのである。
●孫崎氏には、あらゆる機会を捉えて本書の内容を講演していただきたいものだ。もちろん本書を熟読することも重要だが、肉声を通して説いてもらうと、孫崎氏の決意のほどがひしひしと伝わってきて聞く者は必ずや自分でもわが国の国益について考えずにはいられなくなる。そして、何かをせずにはいられなくなる。その意味で孫崎氏は天性の教育者と言うべきである。私はほんの数えるほどしかお目に掛かったことはないが、それでも今に残る薫陶を頂いたと感謝している。この喜びをさらに多くの人々に体験してもらって再生日本の礎ともなる若き人材が薫陶を受けることを祈るばかりである。