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 佐々木良昭「トルコが中東地域の指導者となる」 
                (世界戦略情報「みち」平成23年(2671)9月1日第344号) 

●佐々木良昭氏の新しい本が出版された。『革命と独裁のアラブ』(七月一四日、ダイヤモンド社刊)である。本書の本文冒頭(一六~一七頁)に大中小三枚の地図が載っている。著者佐々木氏の説明によれば、両頁にまたがる一番大きな地図は米国によるこれからの中東政策の要となる「ロードマップ」だという。現状(右頁下の中地図)と比べて、まず目につくのがイランの南東部とパキスタン西部を割いて登場している「バルチスタン国家」であろう。イラクは「クルド国家」「スンニ国家」「シーア・アラブ国家」「バグダッド国際都市国家」の四つに分割されている。最大の産油国サウジアラビアの湾岸産油地帯が切り離され「シーア・アラブ国家」として誕生するというわけだ。
 この「アメリカが描く新しい中東地図」という説明の付いた地図は、米軍退役将校ラルフ・ピーターズ大佐が二〇〇六年に「ブラッド・ボーダーズ」(血塗られた国境線)と題する論文を軍事専門誌『アームド・フォーシーズ・ジャーナル』に発表したときに付載され、「New Middle East Map」(新中東マップ)と名づけられたもの。
●この「新中東マップ」が登場してくる背景には米国の対中東政策の破綻がある。数次にわたる湾岸(イラク)戦争もアフガンにおける対テロ戦争も厖大な経費を費やしながら米国の国益を増大するどころか、米国の世界覇権そのものに対する疑問や批判を招く原因となっている。
 佐々木氏によれば、そこで米国は「新しい国境線を引かない限り、この民族・宗教紛争は落ち着きそうにない」と考えた。「地域の民族、宗教、宗派の分布状況をベースにして新たな国境線を引き、住み分けさせれば問題は解決され、紛争やテロはなくなる」(二一頁)というのである。だが、米国による線引きを押し付けると、英仏の利害に基づく国境線を強要した現状線引きの二の舞になるのが落ちだ。そこで、米国は対中東政策をハード路線からソフト路線へと転換することにした。つまり、「中東諸国で内乱を起こす、正確にいえば内乱を起こさせることにより、自らの手で新しい国境線を引かせる」という戦略だ、と佐々木氏は解説する。これが先のチュニジアのジャスミン革命に始まるアラブ諸国大変動の本質であるというのが、著者の分析である。
●ところで、米国の新中東政策ロードマップ「新中東地図」はかつて二〇世紀初頭までほぼ六七〇年間にわたって中東を支配したオスマン帝国の地図とそっくりだとも佐々木氏は指摘している。
 傲岸不遜で常に二枚舌を弄し、畳に土足で踏みこむ無礼に気づかない文明不在の米国が本当に「ソフト路線」を実行できるとはとても思えないが、佐々木氏によれば、そこで否でも応でもアラブ世界のかつての宗主国トルコの存在がますます重くなってくることになる。トルコは現在、七〇の国々とビザなし交流の関係を結び、それらの国々のインフラ整備や教育向上に多大の貢献を果しているが、これらの国々はかつてのオスマン帝国の版図とぴたりと重なると佐々木氏は言う。トルコはカダフィ政権下のリビアにも多大の投資を行なってきた。
●本書には「ツラン」という言葉は一言も出てこないが、ツラン民族の同胞として、また常に変わらぬトルコの友邦として中東地域で日本の果たすべき役割も、米国の使嗾に甘んじる域を脱しトルコとの同盟を主軸に据えるべき時代が来ていると思われる。