みょうがの旅    索引 

                      

 資源大国日本の怠慢 
(世界戦略情報「みち」平成26年(2674)1月15日第396号) 

●昨年末辞任に追い込まれた猪瀬直樹東京都知事が石原都政の副知事時代に発表した「南関東ガス田発電計画」というプロジェクトがある。本号常夜燈で触れていて、私は初めて知ったのだが、強く興味を惹かれたので急いで調べてみた。すると、これは卓抜な構想であることが分かった。ネットで調べた限りでは新聞記事資料は見当たらず、わずかに日経BP平成二三年八月九日の記事(http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110808/280319/)
に猪瀬自身の言葉を引いて紹介しているのが目に付いた。

 僕が座長となって、東京都の「東京天然ガス発電所プロジェクトチーム」が八月二日に発足した。「災後」の電力不足問題に迅速に対応し、産業空洞化を回避するための「東京モデル」を実現していく。国の方針が定まらないなか、東京は電力政策に真正面から取り組んでいる。
「小さな敷地に低コストで建設できる天然ガス発電所」
 三月一一日以降、電力不足問題をいかに解決するかということで、新エネルギー研究会を発足させ、川崎の天然ガス発電所や、群馬県の玉原揚水発電所、八丈島の地熱発電所などを視察した。東京に大規模発電所を造り、電力需要に応える可能性を探ってきた。
 ……総合的に見て天然ガスがもっとも代替エネルギーとして優れている。ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)方式なら、従来の火力発電にくらべて発電効率が一・五倍と性能がよい。比較的小さな敷地で建設できるので、都市部でも天然ガス発電所の建設コストは二基で五〇〇億円(五年前の価格、現在はもう少し高い)と、原発よりもはるかに安い。CO2(二酸化炭素)の排出が比較的少なく、硫黄酸化物などの排出も極めて少ないという点でも、天然ガスはクリーンなエネルギーだ。
 天然ガスは、近年、ガス田ではなく頁岩(シェール)層から得るシェールガスの採掘技術などが開発されて、利用可能な埋蔵量が飛躍的に伸びている。また、石油は政情が不安定な中東に偏っているが、天然ガスは北米大陸などにも多く存在している。エネルギー安全保障の観点からも、天然ガスは非常に優れている。

 まったく、猪瀬直樹の言うとおりで、もしもこの計画が実現していれば、東京都のエネルギー事情が一変したであろうことは間違いない。
●猪瀬は明言していないが、東京および千葉の地下には「南関東ガス田」と呼ばれる天然ガス資源が眠っている。この地下天然ガスの埋蔵地域は千葉県の大部分と、茨城県と埼玉県と東京都さらには神奈川県の東京湾寄りの地域を含む広大な範囲(ウィキペディア掲載の下図参照)におよんでおり、この天然資源を発電に利用することができれば、まさに「地産地消」を首都圏のエネルギー面で実現することになり、東日本大震災で露呈したエネルギー問題の欠陥の一部を大きく改善することに寄与したはずなのである。


南関東ガス田の範囲(緑色部分

 独立行政法人「産業技術総合研究所地質調査総合センター」が平成一九年六月二二日に発表した「関東平野南部の地下に埋蔵される天然ガス」という記事には次のような説明がある。

 関東地方南部の平野の地下には約二五〇~四〇万年前に海底に堆積した上総(かずさ)層群と呼ばれる地層が分布しており、この地層の隙間にある地下水(鹹水(かんすい)=化石海水)には天然ガスが溶けています。この地層から千葉県で生産されている天然ガスは、日本の天然ガス生産量の十数%に当たります。この南関東ガス田に埋蔵されている天然ガスは、国内の天然ガス確認埋蔵量の九割を占めるほど膨大なものです。
 しかし、天然ガスが比較的浅い地層に含まれているために、天然ガスの採取に伴う大量の地下水の汲み上げが地盤沈下を引き起こす怖れがあります。そのために、天然ガスの開発は人口密集地域では規制されており、また汲み上げる地下水の量も制限されています。
天然ガスの主成分はメタンで、地層の中で微生物が作り出したことが (独) 産業技術総合研究所地質調査総合センターなどの研究によって明らかになっています。
 都内にある温泉施設では、地下一〇〇〇~二〇〇〇メートル程度の深さから地下水を汲み上げており、メタンは地下の高い圧力によって水に溶けています。しかし、メタンは大気圧ではほとんど水に溶けないので、水が地上に汲み上げられると自然に水からメタンガスが分離することになります。

 この記事は同年六月一九日に渋谷区松濤の松濤温泉シエスパで三人の死者を出した爆発事故を受けて発表されたもので、事故の原因は施設内に滞留・充満した天然ガスに引火・爆発したものであった。右の傍線部分に注目されたい。南関東ガス田の湧出地下水から発生したメタンガスによる爆発事故は頻繁に起きており、北区浮間での温泉井戸掘削中の引火事故なども、記憶に新しい。
 徳洲会スキャンダルによって東京都知事猪瀬が辞任した煽りを受けて彼が副知事時代に提唱した「東京天然ガス発電プロジェクト」も全面放棄された。猪瀬がどういう経緯で「南関東ガス田発電計画」をぶち上げるに至ったのかは詳らかにしないが、いずれにしても副知事に発電計画を進言した裏方がいたはずで、一知事の政治スキャンダルの道連れになって葬り去ってしまうには、余りにも惜しい計画である。猪瀬に進言したであろう裏方に、改めての捲土重来を促したい。
●言論プラットホーム「アゴラ」なるサイトに山田高明という人がシリーズ連載で「石油文明からメタン文明へ」という論考を掲載しているが、その第一一回目(平成二四年二月二〇日発表、http://agora-web.jp/archives/1433225.html)は、「『日本経済敗れて足元に巨大天然ガス田あり』という寓話」と題して、エネルギー問題で困窮(?)している日本の愚かしさに警鐘を鳴らしている。
 山田高明氏が猪瀬による「東京天然ガス発電プロジェクト」発表の直後の平成二三年八月二〇日に書いたブログ「東京ガス田の復活とメタンハイドレートの可採化にむけた提案」では、南関東ガス田の可採埋蔵量は三六八五億立方メートルで、日本のLNG輸入量が年間約七二〇〇万トン=約一〇〇〇億平方メートルなので、これは年間輸入量の三・七年分に相当し、東京ガスの年間販売量が約一四〇億立方メートルである点を考えると、地元消費を基準にした場合の可採年数は約二六年となる、という試算を行なっている。
 意外にも埋蔵量は大したことないと考える向きもあるかも知れないが、宝の持ち腐れをしてエネルギー問題で困窮しているばかりか、剰え有効活用しないために人命を犠牲にする爆発事故まで起こしていることに、山田高明氏は警鐘を鳴らしているのだ。
 山田氏に拠れば、開発に着手しない最大の理由とされた地盤沈下という問題もガスを抜き取った後の地下水をまた戻してさえやれば現在の技術水準でまったく問題がなく、経済性の面でも安全保障の面でも良いことづくめだという。そして止めとして、次のように提案している。

 実は、最新の気体分離膜は、圧力差で溶存ガスを分離させることができる。つまり、液体は通さないが、気体は通す膜というわけだ。この技術を生かせば、地下からメタンだけを取り出せる新型の多孔パイプを開発できるかもしれない。簡単にいえば、多孔パイプの内側に気体分離膜が装着されたものだ。仮に「ガス分離ストレーナ」と命名しよう。……この技術が完成すれば、大変なことになる。なぜなら、地中に穴を掘るだけで、誰もが手軽に巨大ガス田とアクセスできるようになるからだ。そこにガス分離ストレーナを差し込みさえすれば、容易にガスの生産ができてしまう。そのパイプをそのままガス管に接続すれば、何もしなくてもガスが独りでに湧き出てくるのと同じだ。

●「資源大国日本」などというと、いくつもの「?」が返ってきそうだが、日本海で不断に生成されるメタンハイドレートや南関東ガス田、そして南鳥島周辺の高純度レアアース、伝統作物の大麻など、ふんだんにある宝の資源を何ら開発せず「資源に乏しい日本」などと悲しむ理不尽な怠慢は一日いや一刻も早く改めなければならない。